至上最幸の恋

 ひとりきりになってしまった。
 律だけでなく、父までいなくなってしまった。

 オレは、家族を失ったんだ。

 胸の痛みが強くなる。
 こんなに苦しくても、依頼された制作はこなさなければならない。だが、いい絵が描けるとは思えなかった。心が、色を失っているからだ。

 スケッチをしていても、そこに色が浮かんでこない。いつもなら鮮やかに見えるはずの景色が、まるで墨汁で塗りつぶされたようだ。

 いつか、この痛みは消えるのか。
 母を亡くしたときのように、少しずつ薄れていくのだろうか。

 それでも、オレはひとりだ。

 こんな状態で、人の心に残る絵など描けるわけがない。
 これからずっと、このモノクロームの世界で生きていくしかないのだろうか。

 それならば、もう画家としてのオレは死んでしまったのかもしれない。

 ……あれこれ考えるのはやめよう。
 いまはとにかく、やるべきことをひとつずつ片付けなくては。

 ひとまず、風呂にでも入ってゆっくりするか。
 父は入浴剤が好きだったらしい。洗面所の戸棚には、さまざまな種類のものが並んでいた。

 息子のくせに、オレはそんなことも知らなかったんだ。

 風呂に湯を張り、父の入浴剤をひとつ拝借した。これは、ゆずの香りか。少しは気持ちも落ち着きそうだ。

 2階の自室から着替えを取り出して階段を下りると、インターホンが鳴った。
 もう22時近い。こんな時間に、一体誰が来たのだろう。