至上最幸の恋

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 春雨の音が、静かに響いている。
 窓の外は闇に包まれていて、なにも見えない。雨戸を閉め忘れていたことに気づき、重い腰を上げた。

 そういえば、昔は雨戸を閉めるのがオレの仕事だったな。
 あのころと比べると、この家もかなり傷んできた。雨戸のレールも、少し引っかかる。

 それでも、父は丁寧に手入れをしていたらしい。物も綺麗に整理されているので、遺品の整理にはそれほど手間取らない。

 ひとりで作業をしていると、次第に父がいなくなった実感がこみ上げてくる。

 脳卒中で倒れてから、父はあっという間に逝ってしまった。最期には間に合い、手を握り、声をかけることができた。それが、唯一の救いだったと思う。

 それでも、もっと会話をしたかった。
 両親の遺影が並んでしまった仏壇には、渡せなかった糸島土産を供えている。信さんとの出会いや糸島の景色について、父に話したかった。

「今日は、少し冷えるな」

 誰にともなくこぼした言葉は、雨音に紛れて静かに消えていく。

 明日は一度、東京へ戻るか。
 制作はある程度進めていたが、まだまだ描かなければならない。父の期待や律の決断に報いるためにも、立ち止まるわけにはいかない。

 しかし、鎌倉の景色を見ても心が動かなかった。
 きっと疲れているだけだ。そう思っても、空虚さと焦りが代わる代わる顔を出してくる。