至上最幸の恋

 そこで、ふと疑問が湧いた。

「なぁ、どうしてオレが日本人だと分かったんだ?」

 ウィーンを訪れる観光客は欧米人が多いものの、たまに中国人を見かけることもある。言葉を聞かなければ、アジアの人種を区別するのは難しいだろう。特にオレは、日本人らしい顔立ちではないと言われることが多い。

「日本語を喋る前に、日本人だと分かったんだよな?」
「ええ、ピピっときたんです」
「ピピっと?」
「貴方は運命の人ですから」

 無垢な笑顔で言う。よく分からん。やはり魔法使いなのか。
 エリサに対して、細かいことを気にするのはやめたほうがいいな。余計に混乱するだけだ。
 
 それ以上は追及せずに、紅茶をひと口飲んだ。
 
 これまで味の違いなんて意識したことはなかったが、この紅茶は妙に味がいい。茶葉によって、ここまで差が出るんだな。
 それとも淹れる人間にも左右されるのか……いや、淹れ方の問題か。

「紅茶の淹れ方には、なにかコツがあるのか?」
「そうですね……茶葉にお湯を注ぐ前に、あらかじめポットを温めておくことでしょうか」

 突然話題を変えたのに、エリサは嫌な顔ひとつせず答えた。

「そうすることで湯の温度が下がりにくくなって、茶葉の旨味がしっかり抽出されます」
「なるほどな」

 その「ひと手間」があるかないかで、味は大きく変わるのだろう。