至上最幸の恋

「とても、かわいらしい方よね」

 なぜこのタイミングで、エリサの名前を出したのか。妙に引っかかった。

 オレとの関係を疑っているわけではないだろうが、なにかしら気にしているのは、確かだろう。ここで確認したほうがいいのだろうか。

「あなたも、いつもよりよく笑っていたし。楽しそうでよかったわ」
「律、エリサは」
「やっぱり、少し寒いわね。早く帰りましょ」

 オレの言葉を遮り、律が微笑む。そしてオレの手を取って、少し早足で歩き出した。

 律の言葉から、揶揄するような響きは感じない。ただ、なにかを含んだ言い方ではあった。

 彼女の心を真に理解するには、言葉の先や裏を読まなければならない。それが苦手なオレは、彼女の夫に相応しくないのではないかと、ふと思うことがある。

 そう考えること自体、逃げだな。
 絵や自分とは向き合えるのに、律が相手だとなかなかうまくいかない。他人だから当たり前ではあるが、そこを歩み寄って理解しあっていくのが夫婦であるはずなのに。

「もうすぐ冬になるわね」
「ああ」
「今年も暖冬なのかしら」
「そうかもな」

 当たり障りのない会話が、まるで壁のように律との間に積み重なる。

 薄い雲が月を覆い隠し、少しだけ暗くなった夜道を歩きながら、律の話に空虚な返事を繰り返していた。