至上最幸の恋

「……あなた」

 律が遠慮がちに声をかけてきた。

「慧さんが、残りのお料理をタッパーに入れてくれたわよ」
「ああ、ありがとう」
「お前、ここ数か月で痩せたからな。たっぷり食って体重を戻せよ」

 カウンター内で洗い物をしながら、慧が笑う。
 確かに最近、ベルトが緩くなった。食事もそこそこに制作に没頭していたからだろう。

 寝食を軽んじているつもりはないが、熱中すると結果的にそうなってしまう。描きたい衝動が湧き上がってくるときは、なにを置いても描かなければ気が済まなくなる。

 そういうときは誰にも邪魔されたくない。律とも、ほとんど会話をしない日が続いていた。
 だからこそ、律が受賞を喜んでくれて、心底ほっとした。彼女の献身に、少しは報いることができただろうか。

 それからエリサは、磯崎の車で帰っていった。
 オレたちも自宅まで送ると言ってくれたが、エリサとは逆方向だし、歩いて帰れる距離なので丁重に断った。

 肌寒いが、風が気持ちいい。
 こんなにゆっくりした時間を過ごしたのは久しぶりだ。この数か月は、あっという間に過ぎていった気がする。

「寒くないか?」
「うん、大丈夫」

 律はいつも、半歩後ろを歩く。そしてオレがたまに振り返ると、静かに微笑む。
 夫婦の在り方などはよく分からない。けれど、オレと律はこの形がしっくりくるのだと思う。