至上最幸の恋

 日展の会期は11月末までだ。あと3週間ある。その間に、エリサは見に来られるだろうか。

 彼女に見てもらわなければ、あの絵は完成しない。しかしピアニストとモデルを両立しているエリサに、無理を言えるはずもなかった。

「瑛士の絵は、とことん深いよなぁ」

 手酌で日本酒を喉に流し込みながら、慧がしみじみ言った。こいつは異様なほど酒に強い。もうかなり飲んでいるはずだが、顔色ひとつ変わっていなかった。

「分かります」

 慧の言葉に、磯崎が大きく頷く。その隣で、エリサは首振り人形になっている。

「山のようでもあるし、海のようでもある。かと思えば、森の中にいるような清涼感に包まれる感覚もある。桂木さんのギャラリーで初めて拝見したとき、あまりの感動に体が震えましたよ」
「さすが、磯崎さん。感想がアーティストだな。俺は絵に関しては素人なので、いい表現が思いつかなくて」
「芸術への造詣が深いかどうかは、関係ありませんよ。むしろ知識という枷がないぶん、心がそのまま感じ取ると思います。浅尾さんの絵は、専門家だけでなく、これまで芸術に縁遠かった人たちも魅了するでしょうね」

 世辞ではない、真っすぐな賛辞だと感じた。一流のカメラマンにそう言われるのは、光栄なことだ。