至上最幸の恋

「私、いつか鎌倉に住みます」

 エリサが無邪気に笑った。脈絡のないその発言に、磯崎が目を丸くする。

「行ってみたいとか住んでみたい……じゃなくて、住みます?」
「ええ。素敵なところだと聞くので、住み着きます!」

 あまりに堂々と言うので、つい声に出して笑ってしまった。

「住み着くのか、そりゃいいな。鎌倉は時間の流れが穏やかだから、ゆっくり年を取れるぞ」
「まぁ! それなら、長生きできますわね!」
「あはは、浅尾さんもエリサちゃんも面白いなぁ」
 
 今度は磯崎が笑い声を上げた。

 相変わらず、エリサの言動は予測不能だ。しかし打算ではない。そのとき感じたことを、そのまま言葉にしている。彼女はそういう人間だ。

 オレの身の上話のせいで空気が重くなりかけていたが、エリサに救われたな。慧も律も、笑っている。

「そういえば、受賞された絵はどちらに展示されているんですか?」

 磯崎が話題を変えた。

「都美……東京都美術館です。すぐそこの」
「そうですか、早く観たいなぁ。エリサちゃんは、もう観たの?」
「いえ、実はまだ……なかなか、開館時間中に伺えなくて」

 エリサが長いまつ毛を伏せる。
 絵が完成してすぐ連絡はしたが、多忙な彼女にはまだ見てもらえていない。リサイタルのときに見かけたあのマネージャーらしき男が、簡単に確認しただけだ。