律と結婚したのは、父にこれ以上心配をかけたくなかったからだ。ただでさえ、オレが絵を描くことにいい顔をしない父だ。独り身のままでいれば、余計に気を揉ませるだろうと思った。
「そうですか……ご苦労なさったんですね。でもこんなにお綺麗な奥様とご結婚されて、しかも日展で受賞するなんて、お父様も鼻高々なんじゃないですか」
磯崎の返しは、非常にスマートだ。社交場に慣れている人間とは、こういうものなのか。
磯崎の視線を受けて、律は照れくさそうに俯いた。
「いえ、日展のことは、まだ父に話していなくて。画家として成功したとは言い切れないし……」
「私が、連絡しておきました」
突然、律が口を挟んできた。
「え? 親父に連絡したのか?」
「どうせあなたは言わないだろうと思って、近況報告がてらハガキを出しておいたの。そのあと、電話をいただいたわ」
律は、グラスの水滴を指でなぞりながら言った。
「親父は、なんて?」
「まだ描いていたのか……って。電話があったこと、あなたには伝えなくていいって言われていたんだけどね」
まだ描いていたのか……それは、どういう意味なのか。祝福の言葉ではないことだけは分かる。
日展の大臣賞を一度受賞したくらいでは、足りない。もっと描かなければ。
「そうですか……ご苦労なさったんですね。でもこんなにお綺麗な奥様とご結婚されて、しかも日展で受賞するなんて、お父様も鼻高々なんじゃないですか」
磯崎の返しは、非常にスマートだ。社交場に慣れている人間とは、こういうものなのか。
磯崎の視線を受けて、律は照れくさそうに俯いた。
「いえ、日展のことは、まだ父に話していなくて。画家として成功したとは言い切れないし……」
「私が、連絡しておきました」
突然、律が口を挟んできた。
「え? 親父に連絡したのか?」
「どうせあなたは言わないだろうと思って、近況報告がてらハガキを出しておいたの。そのあと、電話をいただいたわ」
律は、グラスの水滴を指でなぞりながら言った。
「親父は、なんて?」
「まだ描いていたのか……って。電話があったこと、あなたには伝えなくていいって言われていたんだけどね」
まだ描いていたのか……それは、どういう意味なのか。祝福の言葉ではないことだけは分かる。
日展の大臣賞を一度受賞したくらいでは、足りない。もっと描かなければ。



