至上最幸の恋

 なにげなく、律のほうへ目をやる。彼女は静かに微笑んでいたが、その指先はグラスの縁をなぞるばかりで、ほとんど口をつけていなかった。

 どことなく、笑顔がぎこちない。初対面の相手が増えたせいか、それとも……いや、考えすぎか。

 幸太郎は、近年の画壇について熱く語る桂木さんの相手で忙しいようだ。ふたりとも、相当酔っているな。

「はい、ブレンドです」

 慧がカウンター越しに声をかける。磯崎は軽く会釈して、席についた。そしてエリサが、その隣へ腰を下ろす。

「ブラックでよかったですよね」
「はい、ありがとうございます」
 
 磯崎は静かな所作でカップを手に取った。まるで何度も通っている客のようだ。

「磯崎さん、もしかして、ここに来たことがあるんですか?」
「おいおい。前に話したぞ。磯崎さんが来てくれたって」

 慧が盛大にため息をついた。

「いつだよ」
「リサイタルに行った2週間後くらいだよ。お前がここでカレー食っているときに言っただろう。頷いていたじゃないか」
「……そうだったか?」
「はぁ~、お前は本当に……制作中は絵のことで頭がいっぱいになるよなぁ」

 いつその話を聞いたのか、まったく覚えていない。リサイタル直後なら、確かに絵の制作に没頭しているときだった。