至上最幸の恋

 いや、果たしていまはそう言えるだろうか。昔のほうが、絵に対してもっとひたむきだった。たとえ名が売れていなくても、堂々と「画家」だと名乗っていただろう。

 いつからこうなったんだ。また、胸の奥で黒いものがうごめく。

「やっぱり、瑛士さんの絵は優しいですね」

 スケッチブックをじっと見つめて、エリサが言った。その声で、心が明るい場所へ戻される。

「……ただの線だろ、こんなのは」
「ただの線にも『その人』が出ますわ」
「さすが、エリサさんだね。その通りだよ」

 そう言いながら、桂木さんがスケッチブックに視線を移した。磯崎も、その後ろから覗き込んでくる。

「うん、浅尾君そのものだね。深くて、どこまでも優しい」

 磯崎もなにか言うかと思ったが、桂木さんの言葉に小さく頷くだけだった。ジャンルは違えど、同じ芸術家だ。オレの絵をどう評価するのか、聞いてみたい気もする。

「桂木さん。今度必ず、ギャラリーに伺います。浅尾さんの絵を、どうしても観てみたくなりました」

 磯崎の口から出たのは、打算のない真っすぐな言葉だった。

 瞳を見れば分かる。これは、芸術家特有の好奇心に満ちた瞳だ。少なくとも、オレの絵には観るだけの価値があると判断したらしい。
 もしかすると、エリサに向ける熱っぽい視線も、純粋な美に対する憧憬(しょうけい)なのか。

 彼の写真も、観てみたいと思った。だがそのひと言が、なぜか喉の奥で止まる。