至上最幸の恋

「それで、その彼女とはどうしたんだ?」
「明日も会う約束をした」
「なんだよ、まんざらでもないわけか。花でも買って行ったらどうだ? デートに手ぶらで行くなんて、レディに失礼だろう」
「花か……」

 そういえば、エリサはクッキーを焼いてきてくれるんだったな。手ぶらで行くのは、確かに申し訳ない。デートではないが、明日公園へ行く前になにか選んでおくか。

「ところで、エイシ。これから散歩に付き合ってくれないか?」

 ラウロが、首から下げたカメラを持ち上げながら言った。

 ちょうど薄暮の時間だ。街の輪郭が闇に溶ける前の、ざわめきと静けさの境目。ラウロの写真は、そんな薄暮の景色を写したものが多かった。

 特にやることもないので、彼の散歩に付き合うことにする。

 ハプスブルク家の都だったウィーンは、歴史的建築が立ち並ぶ一方で、近代的な建築物も多い。歴史と未来とが同居する美しい街並みを歩くだけで、インスピレーションが刺激される。

 春先のウィーンは天候が荒れることが多いと聞くが、いまのところ、穏やかな晴れの日が続いている。ラウロはオレの少し後ろを歩きつつ、一眼レフのシャッターを切っていた。

「エイシは絵になるからね」

 どうやら、オレも彼の被写体の一部らしい。
 写真は、一瞬を永遠にする。それは風景画も同じだ。しかしどこを切り取るのかは、個人の感性が出る。