至上最幸の恋

「……瑛士、どうする?」

 オレの葛藤をなんとなく察した慧が、遠慮気味に顔を覗き込んでくる。

 せっかく招待してもらったというのに、ここで挨拶ひとつせずに立ち去るのは、あまりに礼を欠く。個人的な感傷は飲み込んで、会いに行くべきだろう。

「エリサがそう言ってくれているなら、顔を出します」
「それじゃ、一緒に行こう」

 桂木さんは、嬉しそうに立ち上がった。
 挨拶に行くだけだ。そう自分に言い聞かせながら、桂木さんのあとに続く。

 ホールを出て向かう先は、開演前に磯崎が歩いていったのと同じ方向だった。終演後すぐに席を立っていたあの男も、また楽屋へ向かったのだろうか。

 桂木夫妻が弾んだ声でコンサートの感想を語り合い、慧もその輪に加わっている。オレは一歩後ろを歩いていて、会話は耳に入ってくるだけだった。

 ホールをあとにする観客たちの表情を見れば、今日のリサイタルが大成功だったことは明白だ。誰もが晴れやかな笑顔で、至福の余韻に浸っている。

 それは素晴らしいことだ。心からそう思っている。それなのに鬱屈した気分になっているのは、オレ自身の問題であって、エリサのせいではない。いったん自分の感情は横に置いて、素直に感動を伝えなければ。

 そう考えているうちに、エリサの楽屋へ到着した。やはり、あの磯崎もいる。