至上最幸の恋

 モノクロームの風景に、一滴、鮮烈な青が落ちたような感覚だった。 それは濁ることなく広がり、重なり、次第に複雑な色彩の層を形成していく。

 情熱を叩きつけるような激しい赤。芽吹いたばかりの草木のような、瑞々しくも鋭い緑。そして、その色彩の隙間を縫うように走る、細く鋭利な銀の旋律。

 それらが激しく混ざり合い、ときには反発しながら、ひとつの大きなうねりになってホール全体を包み込んでいく。

 なんて美しいんだ。長年探し求めていた景色に、ようやく出会えたような感覚だ。

 体の奥からこみ上げてきた波があふれ、熱いものが頬を伝う。拍手をするのも忘れ、オレはただ呆然と、演奏を終えて立ち上がったエリサの姿を見つめた。

「みなさま、こんにちは。エリサ・ラハティと申します。本日は足をお運びいただき、誠にありがとうございます」
 
 マイクを手にしたエリサが静かに話しはじめ、拍手が沸き起こる。そこでようやく我に返り、周囲に倣って手を叩いた。

「最初の曲は、ショパンのピアノ協奏曲 第1番ホ短調 作品11。みなさまご存知のとおり、ショパン国際ピアノコンクールの課題曲です」

 クラシックに疎いオレでも、いまの曲は知っていた。かつて藝大の大学祭で、学生オーケストラが演奏しているのを耳にしたことがある。