至上最幸の恋

「ひとめ惚れってやつか。いいじゃないか」
「なにがいいんだ? お互いのこと、よく知らねぇのに」
「俺とエイシだって、よく知りもせずに仲よくなったじゃないか。 人と人の縁っていうのは、そんなものだよ。君もアーティストなら分かるはずさ」

 ラウロは写真家で、イタリア国内では、そこそこ知名度があるらしい。プレゼントしてくれた写真集を見る限り、オレと似た感性を持っているように思えた。

 エリサは、どうなのだろう。彼女もアーティストだ。オレは筆で、エリサは音で心の世界を表現する。常に自身の内面と向き合っているのは、きっと同じはずだ。

「その彼女は、ウィーンに住んでいるのかい?」
「日本から、留学でこっちに来ているらしい」
「へぇ、同じ日本人なのか。そりゃ素敵じゃないか」
「まだ子どもだよ。もうすぐ18歳だと」
「イタリアでは、18歳で成人だよ」
「日本では20歳だ」
「エイシは、そんな細かいことにこだわる男なのかい? そうは見えないんだけどな」

 ラウロが肩をすくめる。
 柄にもない。それは分かっている。あれこれと考える性分ではないのに考えてしまうのは、自分の心を真っすぐに見たくないという気持ちがあるからなのかもしれない。

 普段は流れに身を任せているくせに、一体なにを逡巡しているんだ。思わず苦笑して、ビールをひと口飲んだ。