「あの! 私と結婚してくださいませんか?」

 その言葉を聞いて最初に感じたのが、えらく流暢な日本語だな、ということだった。

 太陽の光を反射して輝く美しいブロンドに、グレームーンストーンのような透き通った瞳。パーツの大きさや配置などすべてが完璧で、天使がこの世に存在するのであれば、きっとこういう姿なのだろうと思った。

 しかし、その桜色の唇から紡がれるのが、まさか聞き慣れた母国語だとは思うまい。
 しかもここは、日本から遠く離れたオーストリア。その地でなぜか突然、求婚されている。

「……えーっと、なんだって?」

 状況を整理できずにいるオレをよそに、その女は大きな瞳を輝かせていた。
 
「ああ、これがひとめ惚れなのね! どうしましょう、こんなの初めてだわ! 胸の高鳴りが抑えられないの! 貴方は私の運命の人なんだわ!」

 どう見ても西洋人の出で立ちだが、ここまで自然な日本語を喋るのだから、日本育ちなのかもしれない。

 いや、そんなことはどうでもいい。一体なんなんだ、この女は。いきなり結婚だの運命だの、怪しいことこの上ない。新手の宗教か?

「お名前! 教えてくださいませんか?」

 ずいっと顔を近づけられる。
 どう考えてもおかしいだろう。名前を知らないどころか、たったいまお互いの存在を認識したばかりだぞ。