次の日、私の職場にこないだの警察官の二人が訪れてきた。ドキリと心臓が嫌な音を立てた。
「横井 美海さん?」ネックストラップに掛かったネームプレートを確認され「はい」と短く答えると、お決まりの「少しお時間宜しいですか?」と問われた。
「……あ、はい…あの……会社を出るのなら上に報告しなきゃなので」
「いえ、少し場所を貸していただければ」と言われたので、休憩に入っていた後輩の子に無理を言って業務を交代してもらって、私は使われていない応接室へ彼らを案内した。
「高井戸さんの件ね、あれ事故で終わりましたから。そのご報告に」
事故―――
ほっと胸を下ろす姿を必死に見せまいとして私は目をしばたたかせた。
「あの人ねぇ、本当に近所の評判が悪くて。息子さんは礼儀正しいいい人だったと証言も出ているし。しかもあのアパート築50年は経っていて近々取り壊す予定だったんですよ。あなたも見たでしょう?あの階段」そう言われてぎこちなく頷いた。
「それがねぇ、あの被害者の高井戸さん、ここを出て行かないの一点張りで正直大家さんも困っていたみたいなんですよ。挙句『出ていけって言うなら俺を殺してから行け』と叫んで、ちょっとした障害事件にも発展した前科もありました。もちろん高井戸が加害者ですがね」
そう―――だったの……?
「その時も署に息子さんが迎えに来てね、勿論きちんと罰金も払ってもらいましたがその後『親父が迷惑掛けました』って土下座までされて、息子さん不憫でしたね」
警察官の人は先輩に同情気味だった。
先輩―――……
「先輩は―――そう言う人なんです……人情に厚いって言うか……私も何度も何度も助けてもらいました」
自分の身を挺して。
不本意な別れ方をした時も私を一切責めなかった。
私の目頭が熱くなった。こみ上げる涙を必死に飲み込もうとしたけれど、無駄だった。
「ショ…ショックを受けられたのは分かりますが……息子さんには何の被害もなかったので…」
警察官の人は急に泣き出した私にわたわたと手を振った。
でも―――事故―――
それで終わって、本当に良かった。
真相は私にも分からないけれど、警察がそう判断したのならそれを信じるしかない。
受付に戻ると
「先輩!警察官が先輩を訪ねてくるなんて、何かあったんですか!」と後輩が勢い込んできた。
「ううん…ちょっとした事故に巻き込まれてその結果報告だけだった」と曖昧に笑って誤魔化し
「えー、大丈夫ですかぁ?てか先輩目が腫れてる!何か言われたんですか!?」と言う後輩の言葉に
「大丈夫、大丈夫。私は怪我一つしてないし。ちょっとした目撃者だけったから」
また―――嘘をついた。
私はいつからこんな嘘つきになったのだろう。たくさんの嘘と罪を隠して、
それでも生きていかなきゃならない。
先輩が望んだ、きれいな生き方を―――今の私にできるのかな。



