海李先輩はのろのろと顔を上げた。短い前髪が雨に打たれて額に張り付いている。その額の髪をそっとぬぐって
「警察には私も説明します。一緒に居たことにしましょう。私も目撃したってことにしたら」
「………それは!」
「しっかりしてください!そうしなきゃいけないんです!いくら過失致死だからと言って、今までの環境を知られたら先輩に殺意があったと思われます」
私は濡れたままの手で先輩の手をぎゅっと握ると、先輩がおずおずと握り返してきた。
「いいですか?先輩は私と一緒に居たんです。私の方は……そうですね、実家に帰ろうと思って久々に先輩の顔を見たくなったから、とか。何とでも言い訳できます」
「だけど」
「このまま逃げたら事態は悪化するだけです。大丈夫、私がついてます」私はバッグからスマホを取り出した。
すぐに110番をするとそれから間もなく制服の警察官二名がやってきた。
私はかくかくしかじか、さっき考えた嘘を説明した。
「なるほど、あなたはそのとき部屋に居たんですか?」と警察官の一人が私に聞いてきて
「はい、物音がして何事だろうと思って顔を出したんです」
「この家には頻繁に出入りを?」
「いえ、十年ぶりぐらいです。実家に帰る途中お世話になった先輩に挨拶をしようと思って」
嘘が―――嘘を呼ぶ。
嘘を重ねると、それを貫き通さなければならない。私は自分の発言をしっかりと脳裏に叩きつけた。
「そのときこの被害者も一緒でしたか?」
「……はい。だいぶ酔われてたみたいで。私が尋ねると機嫌を悪くしたみたいで外に出かけると…」
「何故機嫌が悪く?何かあったんですか?」
「いえ……」これ以上の言い訳が思いつかず唇を噛んでいると、ふと沙羅先輩の顔がよぎった。
「言いにくいんですが……お父さんは先輩にお酒を買いに行くようお使いに出したんです。そうしたらお父さんが急に私に襲い掛かってきて……びっくりして……」
「で、突き落とした?」と警察官が鋭い目を向けてきた。
しまった。これじゃ逆効果だ。
「いえ、違います!俺が思いのほか早く帰ってきたから、親父が機嫌を悪くして」
「お酒はどこへ買いに行きました?」と警察官は今度は先輩に聞いて
「……コンビニは遠いから近くの酒屋へ。でももう閉まってて」
「なるほど、オタノシミ中邪魔されたから機嫌を悪くして出ていったっと」と警察官はメモ用紙にペンを走らせる。
「この人は近所でも酒癖の悪さで評判が悪く店の女性店員にも悪さをしようとして、近くの交番に何回も連行されています。その度に息子さんが迎えに来て」ともう一人の警官が少し迷惑そうに顔をしかめた。
そう―――だったのか…ではこちらが有利だ。
「先輩は、滑りそうになったお父さんを助けようとしました。でも雨で手が滑ってそのまま落下して……」
刑事ドラマでよく見る。被害者や加害者に皮膚片が残っている場合のことを考え、故意ではないことをアピールした。
「まぁ事故でしょうな。すぐに通報されたようですし」
警官はペンでこめかみを掻き、私たちは彼らに気づかれないようほっと溜息。



