「沙羅は特別だもん!私と付き合いたいって言う人はいっぱいいるわ!」
悔し紛れの言い訳としかとれない。
「あそ、じゃぁご自由に。これからもそうやって人を陥れればいいわ。でもね、その代償は必ず自分の身に降りかかってくる。覚えておきなさい」
沙羅先輩を指刺すと
「ちょっと!」と沙羅先輩も立ち上がろうとしたが、それより早く私が踵を返し店を出た。
何てこと……
海李先輩は心変わりをしたわけじゃなく、私を守るため―――
そう言えばたかし先輩が言ってた。目を腫らして登校してきたことがあるって。海李先輩があの時点でまだ私を好きでいてくれたら、たくさん悲しんだんだろう、泣いただろう。
それなのに―――私、何も知らなくてごめんなさい。
「お帰りなさい。用事終わりました?」と社に戻ると平和そうな後輩の女の子が笑顔で出迎えてくれたのはいいが
「ちょっ!先輩!どうしたんですか!」
どうした?何が―――
「何でそんなに泣いてるんですか」
そっか……私、泣いてるんだ………
どうしてだろう、涙が止まらない。私はティアドロップ型のネックレスをぎゅっと握り、その場で膝をついて嗚咽を漏らした。
気を利かせてくれた後輩が「体調不良ってことで今日は早退しましょう」と言ってくれてその言葉に甘えることにした。
夕方、早く帰った所で翔琉は当然まだ帰っていなくて、私はオレンジ色の夕焼けが見える窓のカーテンを開き、ぼんやりと街を眺めた。
私の実家と違ってそこはごちゃごちゃと色んな建物が立ち並んでいて、あちこちから飲食店だの夕飯どきの家庭からだの料理の匂いが漂ってきた。
「そうだ……料理……」帰るときにスーパーに寄って凝った食材をいくつか仕入れてきた。料理をしていると色々忘れられそうで、私は普段より時間をかけて凝った料理を作ることにした。
料理を作り終えても翔琉は帰ってこなかった。
”ごめん、残業入った。今日ちょっと帰り遅くなる”と言うメッセージが入り、先にお風呂に入りビールを飲んでも翔琉は帰ってこない。
凝った料理を作ったのに食欲はまるで湧かない。それを誤魔化すためビールを次々と開けていった。
何本目かで眠気がやってきて、ベッドに行くのも億劫で私はその場で横になった。
「―――う……美海」
揺すられてうっすら目を開けると、翔琉が心配そうにのぞき込んでいた。
「翔琉、帰ったの?今何時?」
「11時。それよりどうしてこんな所で寝てンだよ」
「ごめん……夕飯、翔琉と食べようと思って先ビールだけ飲んでたらいつの間にか」
「先食べててくれて良かったのに。風邪ひくぞ。ベッド行こう」
翔琉は私を抱き起し、お姫様抱っこでベッドへ運んでくれた。
ベッドに横たわった私は立ち去って行こうとする翔琉の手を先を握って
「翔琉―――私のこと―――好き?」と聞いた。
「………当たり前じゃん」翔琉はいつか見たあの悲しそうな表情で言って
「俺、飯食ってくるから、おやすみ」と寝室から出て行った。



