それから一か月近く経った。
暦の上では秋に入ったというのに、まだうだるような真夏の暑さが去る気配もなく居座っている。
この日私は珍しく寝坊をしてしまいお弁当を作るのも忘れてしまった。昼休憩の時間帯、近くのコンビニに後輩と買い物に行くと見知った顔とすれ違った。
沙羅先輩―――?
私は足を止めるとパンツスーツ姿の沙羅先輩の後ろ姿を振り返った。
間違いない、沙羅先輩だ。沙羅先輩は高そうなバッグを手に折れそうなぐらいのピンヒール姿で私と反対方向へ歩いていく。
「ちょっ…!ごめん!急用を思い出した。ランチは一人で食べて?」と後輩の女の子に言うと
「え?どうしたんですか」
と後輩はきょとん。
「ホントごめん」それだけ言って私は沙羅先輩を追った。
何で……今更、沙羅先輩と話すことなんてない筈なのに。私の首元でティアドロップ型のネックレスがゆらゆら揺れている。
海李先輩と別れた時点で捨てることも考えたけれど、どうしてもできなかった。
未練がましい気もするけれど、これだけはどうしても。
「沙羅先輩!」
沙羅先輩の背後から声を掛けると、彼女は髪を振って振り返った。
先輩は一瞬私のことが理解できなかったのか不思議そうに首を傾けていたが
「あの、海李先輩の……」と言うと
「ああ」と納得したように頷き、にっこりと笑った。その笑顔はまるで造り物のように精巧で、相変わらずきれいだったけれど、もう純粋にきれいだとは思えなかった。
沙羅先輩は大手生命保険会社の外回りで、ちょうど昼休憩に入る所だったみたいで私もお昼の休憩がまだだったから何となく二人で近くのオシャレなカフェに入ることになった。
先輩はオムライス、私はローストビーフプレートをそれぞれ頼んで、食事が運ばれる間
「すみません、急に声を掛けて」と謝ると
「いいよ、知らない仲じゃないしね」と沙羅先輩は笑う。
「あの……まだ海李先輩と……付き合ってるんですか?」
「え?海李ぃ?そんなわけないじゃん」と沙羅先輩はまるでゴミでも捨てたように軽い口調で言い放った。
「そう言うあなたは?付き合ってる人、居るの?」
「……はぁ、まぁ…」
曖昧な返事になってしまったのは、果たして私と翔琉が”付き合ってる”状態なのか未だよく分からないからだ。



