人魚のティアドロップ


そうして私たちはそれから小一時間程飲み、別れることになった。

真夏の夜のうだるような暑さの中、酔いは覚めることなく若干千鳥足で家に帰り

「たらいま~」とろれつの回らない声でバッグをぶんぶん振り回し家に帰ると

「おー、だいぶ飲んできたんだな。言ってくれれば迎えに行ったのに」と翔琉が心配そうに駆け寄ってきて私の両脇から手を差し入れ支えてくれた。

「うん、久しぶりに智花と呑んできた~、楽しかった~」

私は前を向いて翔琉と向き合うと、翔琉に抱き着いた。

「どうした?」

「んー、翔琉は気持ちいいなって」

「何それ」翔琉は優しく笑った。

「ね、しよ?」上目遣いで聞いた。久しぶりに海李先輩とのこと話題に出されて、ふいに思い出されて、その記憶を上書きしたかったのかもしれない。

「お前、だいぶ酔ってるだろ?そう言うのはあんまり好きじゃないから、また今度に…」

と言う言葉を最後まで聞かず、私は背伸びをして翔琉にキスをした。そのまま部屋着にしていたTシャツの中に手を入れると

「ちょ……そう言う気になっちまうだろう」

「いや?」と聞くと、翔琉はゆるゆると首を横に振った。

その晩、翔琉に抱かれながら私は不思議な体験……と言うか感覚に陥った。

まるで水の底までゆっくりゆっくりと落ちていく感じ。両手両足を投げ出し抗うことなく沈んでいくのに身を任せていると、海李先輩が私の上から私を追いかけるように水を掻きわけて一緒に落ちてくる。

息ができず声も発せない水の中で私は




「海李先輩―――?」



と聞いていた。

翌朝、

「頭いたー、呑み過ぎたかも」とベッドから起きだしてくると

「そりゃそうだ、お前昨日の記憶ある?」と聞かれ

朧げだがある意思を示すと

「そか」と翔琉はどこか悲しそうに笑った。

何?私何かやらかした?

でも翔琉はすぐに普段通りに戻って

「ほれ、しじみ汁。一応味見したけどあんま自信ないから」と翔琉はしじみ汁を御椀に入れて出してくれた。

「サンキュー。助かる。今日も来客予定いっぱい入ってるんだよね、会社行くの辛いなぁ」

「あんま無理するなよ」

「うん、ありがと。でも私ちょっと酒臭くない?」

「ちょっとな」と翔琉に笑われて、私はしじみ汁を飲み干すと慌ててシャワーを浴び、歯を念入りに磨いた。髪も巻いて化粧を施し

「ねー、翔琉、タブレットとかガム持ってない?」とピアスを装着していると

「おー、持ってるけどちゃんと使った後返せよ」

「はいはい、翔琉のケチー」と言うやり取りをしながら、何だか今日も平和だな~と思いながら家を出た。

しかしこの平和も長くは続かないこと、この日の私はまだ知らない。