人魚のティアドロップ


と言うわけで、半ば強引に合コンに参加させられてしまった。メンバーは4対4らしいけれど男性の方は三人しかいなかった。私の前の席は空席だ。

「ごめんねー、一人急な仕事が入ってちょっと遅れるって」

別にいいけど、一人多くても少なくても。

私は―――海李先輩と付き合って彼氏はできたことがあっても”恋”をしたことがない。やがてそれが見抜かれたのか、数人付き合った人にはフられる歴史が続いていた。最後に付き合ったのはこの会社に入る前だから、もう五年以上になるだろうか。

店は洒落たダイニングバーで、カクテルの種類だけでも目が回りそうな程種類が多い。

「私、ピンググレープフルーツのカクテル」

「私はハワイアンブルー」

「私はカシオレ」

女の子たちがそれぞれ可愛いカクテルを注文する中、私は無難なビール。

二十歳を過ぎて気づいたけれど、私にとってお酒は甘いものより苦かったり濃いものが好きなことに気づいた。それに私ももう若くない。無理に可愛い子ぶる必要がない。彼氏が欲しいわけでもないし、結婚願望なんてものは当に捨てた。

そのうちそれぞれ頼んだ飲み物や料理が届いたとき、恒例の自己紹介が始まった。

どの人も当たり障りのないもので私の頭の中をデータとしてだけ残してすり抜けていくだけ。

何だかなぁ……虚しさと空虚さを覚えて早くこの場が終わることを願っていたときだった。

「お待たせ~」

どこか聞き覚えのある声が聞こえてきてふと顔を上げると

「おせーよ、翔琉」

と誰かが声を発した。そのときようやく頭の中がクリアになった。



「翔琉?」



私が目をぱちぱちさせる。翔琉は私の知ってる高校生時代のよりちょっと大人っぽくなったけれど基本変わってない。唯一変わったのは制服姿からスーツに代わったところかな。

「美海!?」

翔琉の方も私を覚えていたみたいでびっくりした様子を浮かべながら、私の前、空席になった場所へ自然と腰を下ろす。

「わー……何年振り…」

「高校卒業してからだから十年ぶり…?ぐらいかな…」

「何だよ、お前ら知り合い?」と男性の一人が翔琉の肘を軽く小突く。

「あー…まぁ幼馴染みたいな?」

翔琉は頭の後ろに手をやって頭を掻く。

「えー、先輩こんな隠し玉持ってたんですか~」と隣に座った後輩の女の子が一人ぼそっと耳打ち。

「隠し玉ぁ?まさか、翔琉とはそうゆう仲じゃないよ」と苦笑い。

翔琉はすぐにビールを頼み、互いにビールを飲める年齢に到達したことを改めて実感。

私と翔琉を除くメンバーたちがそれぞれに楽しそうにしていて、私たちは

「お互い、酒を呑める年齢になったってことか」と黙々と食事をしていた私に声を掛けてきた。

「まあね、そりゃ歳も取るよ」

「その割にはお前全然老けてねぇな。まぁ多少垢ぬけた感はあるけど」

「多少?」私は眉を少しだけ吊り上げた。海李先輩と付き合いたてのとき、一生懸命智花にメイクを教えてもらったことが懐かしく感じる。今ではまるで仕事の一環として面倒ながらこなしているように思える。あの時はメイクする度ワクワクしたのに、今はほぼ事務作業的な。

「翔琉はあんま変わってないね」

私たちの付き合いは高校で終わってしまったけれど、あの時翔琉と会ったとき翔琉は大学は都心の方の陸上特待で推薦が決まったことを覚えている。

「智花は?元気してる?」

「んー、連絡はちょこちょこしてるよ。例の先輩とまだ続いてるみたい」

「そか、それなら良かった」と翔琉は笑った。

「また三人で会いたいな」

「そだね」

私たちの会話はそこで終わった。

何故なら席替えとかでごちゃ混ぜになった合コンは私の前の席や隣の席を違う男性たちが代わる代わる頻繁に入れ替わり

「彼氏、居るの?」

聞かれ、

「居るような居ないような。遠距離だから」と適当に答えると

「いけないなー、遠距離中でもこんな所来て」と返事がきて

「私はただの人数合わせなんで」とそっけなく答えると、男性陣たちは全員が押し黙った。