その日、私は水泳部の競泳前のストレッチをしていると沙羅マネージャーにプールの脇まで呼び出された。
沙羅先輩は見たことのないような怖い顔を浮かべていて、なまじきれいだから怒ると余計に怖く見える。
「海李に近づかないでくれる?あたしたち、付き合ってるの」と言われたとき目の前が真っ暗になった。まるで人魚姫も知らない海の底の底のように―――いっそ泡になって消えたかった。
あの二人、付き合ってたの―――?
確か人魚姫のお話も王子様は結局違うお姫様を選んだんだ。私の場合はただ、王子様に最初からお姫様がいただけ。
それを知らず、ただ先輩の背中を追いかけていたなんて。
考えてみれば何で私、付き合ってる人の有無を確認しなかったんだろう。たかが名前を憶えてもらってただけ。たかが少し手を重ねただけ。
自分のバカさ加減に嫌気を覚える。
それからことあるごとに沙羅先輩の態度は変わっていって、小さな苛めのようなものに発展していった。苛めと言うのは大げさだけれど、タイムが悪いと他の部員の前で大声でしかりつけたり、水球チームのボールの片づけを手伝わされたり……何かと言いがかりをつけてきたり…
「何それ完全な苛めじゃん!」
最近ではすっかりおなじみになっているファミレスで智花が部活後の腹ごしらえと言うことでミートソースドリアを食べながら顔を歪めた。私はすっかり冷めたポテトフライを口に含みながら
「いや、苛めって程大したことじゃないと思うけど」今のところ嫌がらせは私にとって可愛い範囲で終わっているけれど、これ以上かいり先輩に近づくとエスカレートする可能性もある。
「顔は確かに可愛いけど性格激悪」と智花が眉を吊り上げる。「お目当てのかいり先輩もいないんだしさ、もう辞めちゃったら?スイミングスクールなら家の近くに結構あるでしょ、そこに通うことにしたら?」とありがたいアドバイスももらったけれど、私は首を横に振った。確かに智花の言う通りスイミングスクールはあるけれどお金だってかかるし。決してうちは裕福ではないし。これじゃ公立高校に来た意味もなくなる。
「そんなことしたら何だか負けを認めたものじゃない。あたしがかいり先輩目的で入部したこととか、いなくなったら辞めたりしたら、余計勘繰られるし」
「あんたの負けず嫌いの性格は昔から変わってないね」と智花は苦笑い。「でも、まぁ一理あるかもね。そのままかいり先輩なんて眼中にもありません、みたいな顔してしれっと活動してたらそのうち諦めるよ」
だったらいいけど。
「あれ?美海と智花じゃん」と急に声を掛けられ二人同時に顔を上げると、こちらも部活帰りなのだろうか制服姿の翔琉が友達?同じ部員?まぁどっちでもいいや、と結構な人数で入ってきた。
「翔琉、あんたも帰り?」
「そ、腹減ったから」
「翔琉、誰々!?」と翔琉の背後から友達らしき男子が大勢こっちを覗き込んでいる。その視線は殆どが智花に向けられていた。
「あー、幼馴染的な?悪いけど先あっち行ってて。俺こいつらにちょっと話あるから」
と翔琉は鬱陶しいものでも払うように手を振り
話?って何?私たちは話すことなんて何もないよ。と二人してちょっと首を傾けた。
私たちが腰かけていたのは四人席のボックス席で、翔琉は勝手に私の隣に腰掛けるとドリンクバーを注文。
何なのもう、せっかく智花と盛り上がって(?)たのに。
沙羅先輩は見たことのないような怖い顔を浮かべていて、なまじきれいだから怒ると余計に怖く見える。
「海李に近づかないでくれる?あたしたち、付き合ってるの」と言われたとき目の前が真っ暗になった。まるで人魚姫も知らない海の底の底のように―――いっそ泡になって消えたかった。
あの二人、付き合ってたの―――?
確か人魚姫のお話も王子様は結局違うお姫様を選んだんだ。私の場合はただ、王子様に最初からお姫様がいただけ。
それを知らず、ただ先輩の背中を追いかけていたなんて。
考えてみれば何で私、付き合ってる人の有無を確認しなかったんだろう。たかが名前を憶えてもらってただけ。たかが少し手を重ねただけ。
自分のバカさ加減に嫌気を覚える。
それからことあるごとに沙羅先輩の態度は変わっていって、小さな苛めのようなものに発展していった。苛めと言うのは大げさだけれど、タイムが悪いと他の部員の前で大声でしかりつけたり、水球チームのボールの片づけを手伝わされたり……何かと言いがかりをつけてきたり…
「何それ完全な苛めじゃん!」
最近ではすっかりおなじみになっているファミレスで智花が部活後の腹ごしらえと言うことでミートソースドリアを食べながら顔を歪めた。私はすっかり冷めたポテトフライを口に含みながら
「いや、苛めって程大したことじゃないと思うけど」今のところ嫌がらせは私にとって可愛い範囲で終わっているけれど、これ以上かいり先輩に近づくとエスカレートする可能性もある。
「顔は確かに可愛いけど性格激悪」と智花が眉を吊り上げる。「お目当てのかいり先輩もいないんだしさ、もう辞めちゃったら?スイミングスクールなら家の近くに結構あるでしょ、そこに通うことにしたら?」とありがたいアドバイスももらったけれど、私は首を横に振った。確かに智花の言う通りスイミングスクールはあるけれどお金だってかかるし。決してうちは裕福ではないし。これじゃ公立高校に来た意味もなくなる。
「そんなことしたら何だか負けを認めたものじゃない。あたしがかいり先輩目的で入部したこととか、いなくなったら辞めたりしたら、余計勘繰られるし」
「あんたの負けず嫌いの性格は昔から変わってないね」と智花は苦笑い。「でも、まぁ一理あるかもね。そのままかいり先輩なんて眼中にもありません、みたいな顔してしれっと活動してたらそのうち諦めるよ」
だったらいいけど。
「あれ?美海と智花じゃん」と急に声を掛けられ二人同時に顔を上げると、こちらも部活帰りなのだろうか制服姿の翔琉が友達?同じ部員?まぁどっちでもいいや、と結構な人数で入ってきた。
「翔琉、あんたも帰り?」
「そ、腹減ったから」
「翔琉、誰々!?」と翔琉の背後から友達らしき男子が大勢こっちを覗き込んでいる。その視線は殆どが智花に向けられていた。
「あー、幼馴染的な?悪いけど先あっち行ってて。俺こいつらにちょっと話あるから」
と翔琉は鬱陶しいものでも払うように手を振り
話?って何?私たちは話すことなんて何もないよ。と二人してちょっと首を傾けた。
私たちが腰かけていたのは四人席のボックス席で、翔琉は勝手に私の隣に腰掛けるとドリンクバーを注文。
何なのもう、せっかく智花と盛り上がって(?)たのに。



