何で―――って言われても、付き合ってるから、とは言いだせない。
けれど海李先輩は私の手をきゅっと握ると
「俺たち、付き合ってるから誕生日にデートするなんて当然だろ?」
え―――?
沙羅先輩の顔つきが益々険しいものに代わっていった。
「聞いたぜ?美海からじゃないけど、他の部員から。俺、まだ他の部員と続いてるから。名前は明かせないけどな。お前が美海に嫌がらせを散々してるって」
「い……いやがらせなんて…てか、その部員て誰よ」
「言わない。今後また美海に嫌がらせやいじめをしたらそいつに教えてもらうから。そいつの名前を出したらお前そいつの前を避けて美海に陰険な嫌がらせするつもりだろ」
「そ、そんなわけ……」
沙羅先輩が怯んで一歩後退した。
「お前とは付き合いが長いんだ。俺を怒らせるとどうなるか分かってンだろ」
先輩の怒気の孕んだ声がしんと静まった住宅街に僅かに響いた。初めて聞いた。先輩の怒る声を……
「どーせ、コーチに捨てられて、新しいオトコが現れる前の繋ぎとして俺を利用しようとしてるだけだろ」
「そんなつもりは…」
「じゃぁ俺より俺の親父の安い娼婦になれよ!少しなら小遣い稼ぎができるかもな。だけどな、その金、俺が稼いでんの。お前も知ってるだろ」
え―――?
先輩があんなにバイト漬けだったのって、もしかして生活費の為―――?
「海李、どうしちゃったの?あたしたちずっと仲良かったじゃない。ずっと二人で頑張ってきたじゃない。前の海李はどこへ行っちゃったの?」沙羅先輩の弱弱しい声が静かに響く。それは私を苛めているときの強いものではなく、媚びるような”女”そのものだった。
「ずっと二人で?は、笑わせるね。”あの時”俺が泳げなくなったらあっさり見放したくせに」
先輩の空いた方の手がぐっと拳を握り、そこから太い血管が浮き出ている。
”あの時”―――?
「そ、それはマネージャーとして他の部員も面倒見なきゃいけないし…」
「お前のそう言う調子の良いとこ、もううんざりなんだよ!散々振り回しておいて、今日だってこうなること分かってて来たんだろ。被害者面して俺に同情求めるつもりだったんだろ。もう前の俺とは違うんだ。放っておいてくれ!」
先輩は私を庇うようにして後ろに下がらせると、一段と強く手を握ってきて
「行こう、美海」と歩き出した。
後に残された沙羅先輩はこれ以上言い訳が思いつかなかったのか茫然と突っ立っている。
先輩の闇を少し―――知ってしまった気がした。



