人魚のティアドロップ


海李先輩と小さな男の子は割とスペースのある場所で、かつ安全と言える所で楽しそうに声をあげてサッカーを楽しんでいる。

意外…先輩ってあんな無邪気に笑うんだ。今までも無邪気だと思ったことはあるけれど今はまるで子供そのもの。

しかも子供好きと見た。

そのうち、男の子のお母さんと思われる女の人が戻ってきたのか

「よしとー!」と言って駆け寄ってきた。「もう、どこ行ってたのよ、さっきの場所で待っててって言ったでしょう?」

「すみません、僕が一緒に遊ぼうって言ったんで」と先輩が頭を下げると、よしとくんは先輩の足に巻き付き

「違うよ。お兄ちゃんは僕を助けてくれたんだ」

このままじゃ先輩が悪者にされそうで、私がお母さんに説明をした。

「まぁ、そうだったんですね。よしとを助けてくださってありがとうございました」とお母さんはいかにも害がなさそーだと踏んだ私の説明に頷き、

「よしとー、またな~、また遊ぼうな~」と先輩が去っていく親子に手を振るとよしとくんが振り返り「お兄ちゃん、ありがと~!」と無邪気に笑った。

「先輩ていいお父さんになれそうですね」

ふふっと笑うと




「あ?俺、ガキ嫌いだし。


自分のガキなんてぜってぇ欲しくない」



と冷たく一言。

さっきの無邪気な笑顔は一瞬で完全に拭い去られ、またも先輩の黒い瞳の中に一言では言い知れぬ複雑な負の感情が渦巻いて見えた。

「だってさっき、あんなに楽しそうに……」

自分の子供が欲しくないって言われたこともショックだけど、それ以上に何だか踏み込めない、先輩がはじめて見る怖い表情を浮かべていて思わず一歩下がると

「あー、弁当うまかったな。また作ってよ」と先輩はさっきの怖い表情を仕舞いこみ、まるで話題を逸らすように話を変えた。

その顔にはいつもの笑顔が浮かんでいて、ちょっとばかりほっとしたけれど

それにしても自分の子供が欲しくないって―――

私はやっぱショックだ。