人魚のティアドロップ


先輩の遊び、と言うのはプールの中に入って水球用のボールでバレーボールみたいにボールを行ったり来たりさせたりするもので。

てか、これが意外に難しい。水深5メートルの中で足だけで水を掻き手はボールに集中しなきゃならないから。そう考えたら水球部門て凄いな。

バシャッと音を立てて私の手からボールがすり抜け水面に落ちること何度目かのとき。

「美海、意外と下手なのな」と先輩は笑っている。

「だって、はじめてなんだもん」と唇を尖らせていると先輩は一度水の中に潜りレーンを超えて私のすぐ傍で顔を出した。

先輩は顔を拭うと水泳帽を取り去った濡れた髪を僅かにかき上げ、唐突にきゅっと私を抱きしめてきた。

わ!わわ!

「美海の肌、さらさらしてて気持ちいー」と言ってむき出しになった肩ら辺を撫でられくすぐったかった。

「な、来週の日曜日ちょっと有名な大きなテーマパーク的なプールがあるんだけどそこに行かね?」

「え?いいですけど」

「そんときはこんな競泳用水着じゃなくてビキニ希望な」

び、ビキニ!?

「持ってないの?」

持ってない、と言う意味で首をぶんぶん振ると

「来週日曜俺の誕生日なんだ。美海の手作り弁当食べて思いっきり遊びたいなーって思ってさ」

え!誕生日!?

そう言えば知らなかった……

こんなんで彼女と言えるのかな…

でも

「先輩のお誕生日なら!」と勢い込むと、思った以上に勢いがあったのか私は何故か先輩の均整の取れた上半身裸の胸に飛び込む形に。

「ご、ごめんなさ…!」

「何で謝るんだよ」と先輩は私の水泳帽の上から頭をぽんぽん。かと思うとぱっと私の頭から水泳帽を抜き取り、私を水の中へ引っ張りこんだ。急なことでびっくりして水の中で目をぱちぱちさせていると、薄暗い視界の中先輩の顔が近づいてくる気配を感じた。

私の髪が視界の中、ふわふわと水の中で漂っている。それをかき分けるようにして先輩の顔はさらに近づき、水の中でキス。まるで互いの息を分け合うように唇と唇の合わさったその場所から細かい気泡が上へ上へと立ち上っていく。

先輩っていつもそう。予想もしないタイミングでキスしてくるんだから。びっくりし過ぎて思わず水面に上がると先輩も上がってきた。

「美海、人魚みたいで可愛かった」と濡れて頬や額に張り付いた髪をかき分けながら先輩は笑った。

だからってふいうち。

体の半分以上水に浸かっているっているのに顔が熱くなるのが分かる。

そのときだった。プールサイドを誰かが歩いてくる足音と気配を感じたのは。