理由が分からず沙羅先輩の嫌がらせに耐えているある日、その日もやはり沙羅先輩のいやがらせで部活が終わって水球部門のボールの片づけを一人でやらされていると、最近すっかり陽が暮れるのが遅くなった夜空が濃い紫色をしている中、あちこちに飛び散った水球部門のボールを片付けていると…
勿論、水球部門の部員は自分たちが片付けるから、と言ってくれたが沙羅先輩が『タイムが遅いこの子にやらせます』と三年生の沙羅先輩が強引に言い、誰も逆らえないのか彼らも帰って行った後のことだった。
「よ」
海李先輩が競泳用の水着姿でプールに顔を出した。私はちょうどフェンス近くに転がったボールを拾っていたときで、頭上に影が落ちて、何だろうとふいに顔を上げた時、先輩の笑顔を見てびっくりして腰を抜かしそうになった。
「な、何で…」
「前に言ったじゃん。たまに勝手に入り込んでるって」
確かに聞いたけど……
こんな予想もつかない日に会うなんて…びっくりして心臓もたないよ。せめて予告のメッセージとか送って欲しい。
「先輩、今日バイトじゃ……」
「んー、人数合わせで人が余っちまったから違う日にしてくれって」
「それでここに?」
「うん、誰も居ないと思ってたら運よく美海に会えたからラッキー」先輩は無邪気な笑顔を浮かべてピースサイン。
そりゃ私も嬉しいけど……でも何て言うか、こんな水球部門のボールの後片付けをさせられている自分を見られて凄く惨めな気持ちになった。でも沙羅先輩に言いつけられて、なんて告げ口みたいなこと…言えない。
言えない、けど
「また沙羅のヤツに言われたんか」と先輩は顔をしかめる。
先輩、勘が鋭いですね。
「ま、まぁそんなところです」
嘘をつくのも嫌だったし、ここまで来たらもう開き直りだ。
「ホントにアイツはしょうもないヤツだな。俺から一言…」
「いえ!それはいいです!火に油を注ぐって言うか……」
「まぁ、そうだな…」先輩はちょっと悲しそうに笑い、その後ボールを片付けるのを手伝ってくれた。残り最後の一個と言うときになり先輩はボールを指の先で器用にくるくると回し
「せっかくだから遊んでいかね?」と言い出した。



