人魚のティアドロップ


『ちょっとクサかったかな』海李先輩の苦笑いを電話越しで聞いた。

「ううん!嬉しい!そんなこと言ってもらったことないから」

と勢い込むと

『俺のこんな言葉でよければ美海にいくらでもプレゼントしてやるよ。美海が喜ぶこと楽しいこと、これからいっぱい』

海李先輩―――

その後はやはり他愛のない話に代わり、私たちはその日いつもより少しだけ長い時間お喋りをしていると、蒼空がノックもなしに部屋に乱入してきて

「姉貴!煩い!今何時だと思ってんだよ。寝れねーよ」と怒られてしまった。その怒鳴り声が聞こえたのか

『誰?』と先輩が当然ながら聞いてきた。

「あ…弟の蒼空、蒼空ごめん、ちょっと話弾んじゃって」

『悪かったな、こんな時間まで。弟にも謝っておいて』

「あ、はい……こちらこそありがとうございました。おやすみなさい」

蒼空が入って来なかったらもっと話し込めたのに。

「誰と喋ってたんだよ」蒼空が目を細めて腕組み。

「あ……水泳部の先輩。ちょっと悩み事があってその相談」

「ふーん、その割には楽しそうだったけど?」と蒼空は思いっきり疑っている様子。

「と、途中から笑える話になったの!もーいいでしょ。切ったんだから。おやすみ!」

半ば強引に話を終わらせ布団をかぶると蒼空は納得したのかしてないのか渋々と言った感じで部屋を出て行った。

次の日、

朝食の為に下に降りるとお父さんがすでにダイニングテーブルでコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。

私のすぐ後に大きな欠伸を漏らしながら蒼空が降りてきて

「もう、二人とももうちょっと早く起きてきなさい」とお母さんが目を吊り上げる。

「昨日は姉貴が長電話してたから煩くて眠れなかったんだよ」と冷めた目つきで睨んでくる蒼空。

「長電話?」お母さんがトーストをお皿に並べながらぴくりと肩を動かせた。

「ちょっと部活の悩み事相談してただけから」

「その割には楽しそうにしてたけど?」と蒼空が意地悪そうに口を曲げる。

「美海、部活が楽しいのは分かるけど勉強も…」

「分かってるよ」

部活のせいにして勉強をおろそかにしているわけではない。その言葉、蒼空に言ってやってよ。

それからあっという間に春休みが終わり私たちはそれぞれ一学年上がった。私は二年生、海李先輩は三年生。夏になり、水泳部にも何人も新入部員が入ってきたが外のプール開きになった頃、その半分に減っていた。でも私たちは本格的に競泳部門の練習ができるようになった。

その間、私と海李先輩は相変わらず。進展もなければ後退もない。それがいいのか悪いのか。時折海李先輩とは校舎ですれ違うこともあるけれど二年と三年の校舎は違うからそれもあまり期待できない。それでも毎日メッセージや、時間があるときは電話もくれるし、安定しているっちゃしている。

水泳部の方は少しずつだけれど、成績が伸びてきた気がする。誰かを追い越すことはできないけれど秒の単位で少しずつ早くなっていくのは嬉しい。

けれどそれと反比例して最近、また沙羅先輩のいやがらせがヒートアップしてきたような……

どこかイライラした様子の沙羅先輩。そういう日は決まって水球部門の片づけを手伝えとか、ちょっとタイムが伸びてきているから良い気になるな、とか他の部員の前で大声で喚く。

もしかして海李先輩と付き合ってること、気づかれたのかな……