智花は私の質問にゆるゆると顔を横に振り
「ちょっと……話せる?」と聞かれたとき、私は大きく頷いた。
温水シャワーで隣り合ってシャワーを浴びているときも、ロッカールームで着替えている最中も智花は無言だった。ドライヤーで髪を乾かし、制服に着替えて帰る頃になって智花が
「美海……あたしね…翔琉にフられた…」とぽつりとこぼした。
え!?
「何で!」
思わず勢い込むと
「あんまり理由は教えてくれなかったけど、問い詰めたら……す……好きな子が居るって……」
「はぁ!?何言ってンのよ、翔琉の分際で!こんな可愛い智花が好きだって言ってるのに!」
「翔琉のこと悪く言わないで」智花がキっと目を吊り上げる。
「ご……ごめ……あたし…無神経だったね…」
「ううん…美海のせいじゃない。こんなん完全八つ当たり…はぁ、あたしってサイアク…」
智花は前髪をぐしゃりとかき上げた。
「いや、智花は何一つ悪くないよ……ごめんね、傷ついてるときに気の利いたこと言ってあげられなくて」
智花はゆるゆると首を横に振った。
「その……好きな子の名前とか分かったの……?」
「ううん、…最後まで教えてくれなかった」
好きな子の名前を知ったところでどうにかなるのなら、そうしたいけど。私たちは沙羅穿先輩みたいに陰険じゃないからその子に嫌がらせとかしないけど。
「そっか……」
智花は翔琉が好きで、翔琉は他の子が好きで……
何で恋愛ってうまくいかないんだろう。
「でもね、思い切って告白したからちょっとすっきりした。昨日一日泣いたし、美海にも報告できたし」
そうなのかな……智花が負った傷はそう簡単に塞がるものじゃない気がする。だって小学生から片思いしてたんだよ?早々諦められるわけないじゃない。
「智花、今日はファミレスで美味しいもの食べてこ!あたし奢る」と智花の両肩に手を乗せ提案すると智花がのろのろと顔を上げ無理やり笑顔を浮かべた。
「ありがと。じゃー、いつものポテトフライにパフェ追加していい?」
「いいよ、今日は智花の話いっぱい聞くから。全部吐き出しちゃって」
と言うわけで、私たちは二人が行きつけにしているファミレスへと足を運んだ。



