人魚のティアドロップ


カウントダウンも10秒をとうとう数える時間になった。

「先輩!あと10秒です」

『そっか!じゃぁ数えようぜ』

10、9、8……

「『3、2、1……ゼロ!ハッピーニューイヤー!!」』

近くて遠いその場所で私たちは手を伸ばし合った。

今すぐ……今すぐその手につかまって抱きしめあいたい。

その衝動を堪えながら

「あ、明日の待ち合わせ場所後でメッセージで送っておきます」

『おー、サンキュ~。んじゃ、俺帰るわ』

名残惜しかったが、これ以上引き止めて本当に風邪をひいてしまったら大変。

「はい、気を付けてくださいね!」

ぶんぶん手を振って先輩を見送ると、薄暗がりの中やはり先輩が笑った気がした。

「家族と仲良くな~」

待ちに待った元旦。私たちは自分の駅から少し遠い駅で待ち合わせをすることになった。

初めて止まる駅にドキドキしながら足を下ろすと、ホームですでに先輩が待っていた。

「海李せんぱ……!」”い”と言いきらないうちに声を飲んだのは、海李先輩の顔、特に口らへんが赤く腫れあがって内出血の痕もあったし、唇の端には絆創膏も貼られていた。

昨日は暗くて気づかなかったけど。

「ど、どうしたんですか!その怪我!」

慌てて駆け寄ると

「あー、これ?」と先輩はこっちの心配もよそにのんびり。

「昨日、バイト先のスタンドで客に絡まれてさ。急に殴り掛かられた」と先輩は何でもないように言うけど

「そんな…立派な傷害罪じゃないですか。警察と病院には?」

私が眉を寄せると

「んなの、しょっちゅうだって。そのたびに警察や病院の世話になってたら時間の無駄」と先輩は笑う。

そんな……そんな危険なバイト先今すぐ辞めて欲しい、と思うけど先輩だって事情があるだろうし。私の口から軽く言えない。

「せめてバイト先を変えるとか……」と言うと

「いや、店長いい人だし周りもおもしれーヤツばっかだし仕事もそれなりに楽しいし、辞めることはな~」

先輩がそう言うなら……

「そんなに心配するな、大したことないから」先輩は笑顔を浮かべ私の頭をぽんぽん。「さ、楽しもうぜ。せっかくの初詣。そんなしけた面してっと、楽しめるのも楽しめないぜ」と言われ、私は無理やり笑顔を浮かべることにした。

あの時、もっと問い詰めるべきだったのか、先輩の言う通り楽しむことを考えるべきか……今となっちゃ分かんないよ。