人魚のティアドロップ


その日、私は初めて海李先輩と手を繋いで家に帰った。互いの指に指を絡めて、所謂恋人繋ぎってやつだ。

はじめての恋人繋ぎに心臓がドキドキと鳴り、それと同時に緊張し過ぎて手汗かいてないかな、と心配も起こる。先輩の手は大きくてひんやりしていて、でもぬくもりが伝わってきた気がした。

隣り合って歩いて時折先輩は私の横顔を見ると白い息を吐きながら

「寒いな」と言って無邪気に笑う。「何かさー、恋の唄って大体冬が多くね?」

「そう言えばそんな気もするけど」

「恋って言やぁ夏じゃんね。こう、開放的になるっていうか」

少し間違えると危険な発言のような気がしたが、

「次の夏になって浮気とかしないでくださいよ」と冗談めかして言うと

「するか、俺一人と決めたらそいつしか見ないから。って、この顔で説得力ないか」と先輩は空いた方の手で頭の後ろを掻いた。

先輩の発言は嬉しかったけれど何故だか笑いがこみ上げてきた。

「顔は関係ないんじゃ?」

「だってよく言われる。見るからにチャラそうとか、ワルそうとか」

あー、翔琉もそんなようなこと言ってた気が……

「でもでも、あたしは先輩の顔もすっごくかっこよくて……その…好き…ですけど…

も!勿論!惹かれたのは顔だけじゃないですけど」

と慌てて言うと

「あはは、美海はホントに可愛いなぁ。

やべ、今すぐ食いたくなる」とまたも空いた方の手で口元を押さえる。

食い…!それって……

ちょっと上目遣いで先輩を眺めると

「嘘うそ、じょーだんだから。最初のは……まぁノーカンにしてほしいって言ったら美海にとって気分悪いかも、だけど。俺、美海とはゆっくり進んでいきたい」

ノーカウント……

”あの”出来事は先輩の中でなかったことにしてほしいってこと?

「……そんなのヤダ」

思わず手を引き抜くと先輩のダウンジャケットの裾を軽く引っ張った。

「あの出来事はあたしにとって大切な出来事で、忘れることなんてできません。誰でも良かったわけじゃなくて、先輩だったから」

私の言葉に先輩はゆっくりと大きく目を開き、

「……実は俺も勢いで、ってのは初めてだった。だってあのときの美海、すっげぇ可愛かったから」

あたしの両頬を先輩の夜風にさらされた冷たい手がゆっくりと包む。先輩の顔がゆっくりと近づいてきて

キス―――

されると思って、思わず目を閉じようとすると先輩の唇が私の額に軽く触れた。