人魚のティアドロップ


この日もやはり全然眠れなかった。

早めに起きだしてきて、朝風呂に入りドライヤーで念入りに髪を乾かし、いつもより念入りに前髪を整える。前は前髪なんて全然おかまいなしで、ドライヤーで乾かすままだったのに、海李先輩と付き合うことになったから意識してるのかな。

部屋に戻ると、海李先輩からメッセージが入ってた。

”おはよ、今日もがんばろーな”

たった一文だったけど、何だか”付き合ってる”って現実がふわふわと湧き上がってきて口角が自然と上がる。

”おはようございます。はい!がんばりましょう”

てか先輩って意外と早起きだな。何となくだけど……朝ギリギリまで眠ってそうなイメージだったけど。

”がんばろう”と言われてがぜんやる気になった単純な私は智花に教えてもらった化粧を施して……最近少しずつ慣れてきたのかちょっと様になってきたかな。

参考書やペンケース、スマホをバッグに詰め込み再び下に降りていくと、お父さんと蒼空はまだだった。一番乗り。テーブルの上にはトーストとスクランブルエッグ、ウィンナーとカップスープがすでに用意されていて

「あら、あんたが一番早いって珍しいわね」とお母さんに指摘された。

「うん、早く目が覚めちゃって」

早速焼き立てのトーストにかじりつくとそれはどこにでも売ってる食パンなのにいつもより美味しく感じた。

憧れの海李先輩と付き合うと世界ってこんなに違うんだ。

淡いカーテンから入って来る朝の陽ざし。お父さんの為に準備したコーヒーの香り。どれもが違う光景や香りに思えて、どれもが心地よかった。

朝、登校する時間帯、いつも智花と待ち合わせして学校に行っていて、その日も当然智花が

「美海、おは~」と待ち合わせ場所で待っている私の背後からポンと肩を叩かれた。「美海、だいぶメイク上手になったね、可愛い」と智花が朝日より眩しい笑顔を浮かべる。

「うん、智花のおかげ。ねえ、今日のお昼時間ある?お弁当一緒に食べよう?」

海李先輩と付き合うことになった、って今すぐにでも言いたくて言いたくてうずうずしてるのを我慢している。

早くお昼休みこないなかな~、この日の午前中の授業はなかなか頭に入ってこなかった。

そわそわと午前中を過ごし、待ってましたのお昼休み。クラスの友達が当たり前のように机をくっつけてこようとしたけれど

「ごめん、今日あたしちょっと用があって」と言って断ると

「え~誰~?彼氏ぃ?最近美海メイクしだしたし可愛くなったしねー」とからかわれた。

可愛いって言われて嬉しいけど

「違っ!友達」と説明しているとタイミング良く

「美海~、お昼だよ~」と智花が私のクラスに顔を出した。

「何だ、ホントに友達だったんだー」と友達はまるで芸能人のゴシップネタに飢えるようなどこかつまらなさそうだったけれど、切り替えも早く「じゃぁうちらだけで食べてるね~、早く帰ってきなよ」とそれぞれお弁当を広げ始める。

以前も来た屋上に向かうと、流石にこの冬の寒さの中誰も好んでこの場所でお喋りする人も居らず、真冬の風がやたらと冷たく寒かったけれど私の心だけはぽかぽかと陽が当たっている。

「寒~い」と智花は持ってきたコートの前を合わせて、それでも私の誘いに文句を言わず付き合ってくれる。

この間と同じようにハンカチを敷き、その上に腰を下ろし、私はお弁当、智花は今日はコンビニのビニール袋からおにぎりを取り出しマイペースにパッケージを剥いている。

「で?話って?」

聞いて欲しくてうずうずしていた私は智花が切り出してくれて話しやすくなった。

「うん、あたしね、海李先輩と付き合うことになった!」

智花はパッケージを剥いていた手を止め

「え!嘘っ!」と目を開いて私に顔を向ける。

「ホント、昨日決まったの」

「うそ、うそ!ヤッター!」

智花は剥きかけのおにぎりをひざに置いて、私に両手を合わせてきた。

「色々応援してくれた智花のおかげだよ~」手を合わせながら智花に笑いかけると

「あたしは何も……全部美海の努力のおかげだよ」

努力……したのかどうかは分からないけれど、ずっと想っていた人ととうとう付き合うことができて嬉しすぎて、応援してくれた智花に最初に報告したかったのは事実。