今、ここで聞きたくない。先輩の気持ちを。

「とにかく私たち何でもないから、変な誤解しないで。先輩もすみませんでした。今日はありがとうございます」

きちんと頭を下げると暗に『帰って』と言う意思が通じたのか

「ああ、またな。俺も楽しかった」と無表情に答えてダウンジャケットのポケットに両手を突っ込み今度こそ行ってしまった。

後に残った私と翔琉。

「何なのよ!あんたは」私が翔琉を睨むと

「何だって、俺はお前が―――」

「何?」とさらに目を吊り上げると

「あ、あの先輩に遊ばれてることを心配してだな」

「遊ばれてる?そんなことないよ!今日だってご飯連れてってくれて家まで送ってくれただけ」

本当のことだ。本当はキスをしたかった。その後のことも少しだけ期待した。

けれど海李先輩にその気はなさそうだった。

それが少し寂しかったけれど、勢いや雰囲気で流されるのも何だかイヤだった。もう私の頭の中はぐちゃぐちゃ。

「ホントに?」と翔琉はまだ疑った様子。

「本当だよ」目を吊り上げて言うと翔琉は納得がいったのかいってないのか小さくため息を吐いて、それ以上は何も言ってこなかった。

「あたし、もう行かなきゃ。あんま遅いとまたお母さんに怒られちゃう」と言って踵を返すと

「美海!」と翔琉が声を掛けてきた。

「何?」と言って振り返ると

「俺―――」と翔琉が俯きながら何か言いたそうに手をグーやパーに開いたり閉じたりしている。

「何よ、はっきりしてよ。あたし本当に行かなきゃ、だから行くね」と完全に翔琉に背を向けると走り出した。

「美海っ!」翔琉の声だけが後を追ってきたけれど、私はそれを無視。

急いで家に入ると

「おかえり~、智花ちゃんと楽しんできた?」と智花と出かけてくると言った嘘をすっかり信じ切っているお母さんがのんびりと聞いてきた。

「あ、うん。楽しかった」

私の曖昧な返事を不思議に思ってないのか

「同じ高校とはいえクラスが違うとあんまり喋られないしね」とお母さんはまるきり気にしてない様子。

「……うん。あたし、疲れたからもう寝るね」と言い二階にあがった。

「ちょっと、お風呂は?」とお母さんの声が階下から聞こえたが、

「明日の朝に入る」と言うと

「そう」とだけ短い返事。

疲れてるのは事実。

私―――、翔琉が乱入してこなかったらきっと海李先輩に告ってたかも。

でも海李先輩の返事はあまり期待できなさそう。言わなくて良かったかも。

もう、どうすれば良かったのか分かんない。私は顔を覆った。