「さっきの先輩ホントに水泳部?怖いって言うかチャラいって言うか」
長時間水泳部を見学してたからか、さすがに喉がカラカラ。汗は止まらないし髪もべたついてきた。私たちは涼を取るため駅前のファミレスに落ち着きドリンクバーで飲み物を飲むことを決め、智花がかいり先輩のことを言い出した。
「怖くないじゃん、チャラくないじゃん」
「だっていきなり美海のこと呼び捨てだよ?」
「フレンドリーでいいんじゃない?」
「そういう問題?」コーラを飲んでいた智花がちょっと眉を吊り上げる。
「あの女のマネージャーみたいな人も感じ悪かったしさ」
ま、まぁそれは否めない感じはしたけど。
「とにかく、付き合ってくれてありがと智花。智花はアーティスティック希望だったよね」
そうなのだ。智花は競泳でもそこそこの成績であるにも関わらずアーティスティックスイミングに昔から憧れを抱いていた。
智花とは幼稚園からの所謂幼馴染。何年か前見たオリンピックのテレビを見てすっかりアーティスティックの虜になったようだ。小学校の時は同じスイミングスクールに通っていたけれど残念ながらそこはアーティスティック部門はなかった。
確かに智花は手足が長く、顔立ちも華やか。それに独特のアーティスティックメイクを施しきれいに舞う智花はさぞ華があるだろう。
同じ中学に通う私は智花が何人かの男子から告られているのを目撃したことがある。
それでも智花には好きな人がいるようでその男子の全ての告白を断った。
好きな人の名前は教えてもらったことはない。
いくら聞いても「内緒」で終わってしまうのだ。そこまで言われたら無理して聞いても良くない。
いい加減喉も潤ったし、空も翳り始めている。
「帰って勉強しないとね~、あーこれだから受験生っていや」と智花が口を尖らせる。
「同感」
「それに明日は最終の希望校を決める二者面談じゃん?美海は決めたの?」
「うん、さっきの開成にする」と言うと
「マジで言ってるの?」と智花が顔を思いっきり顔を歪めた。「まさかさっきのチャラい先輩の言葉を真に受けて?」
「そんなんじゃないよ。元々開成はあたしの第一志望だったし」小さな嘘をついた。
これまでは志望校の一部に入っていたけれど、はっきりと第一になったのはやっぱりかいり先輩の存在かな。
あの人と一緒に泳いでみたい。あの人と泳ぐと違う世界が見える気がした。それこそ自分が人魚になれる気がしたんだ。
なんて、動機が不純かな。



