思わず声が出そうになって慌てて口元を押さえる。
「試験なんていや、ずっと会いたかったよ」と沙羅先輩の甘い声が聞こえてきて
「俺だって沙羅と会えなくて寂しかった」とコーチの声も。
沙羅先輩の好きな人ってコーチのことだったの?
海李先輩は知ってたのかな……
私はそろりと足を後退させ、見なかったフリ。慌ててプールに向かうと飛び降り代からザバッと音を立てて水の中に飛び込んだ。水深5メートルの底に沈み、体育座りをしながら底で沈みながら吐いた息の気泡を眺め上げた。水面は淡いブルーではなく少し濁った黒に近い色をしていた。
何で…何で……沙羅先輩、海李先輩と付き合ってるとか嘘ついたのよ。
海李先輩はオモチャを取られただけって言っていたけど。
だけど、それなら私に嫌がらせしてほしくない。自分はコーチといちゃいちゃしてるくせに。私が海李先輩と仲良くしてるのが気に食わないなんて。何て大人気ない。
そのうち息も続かなくなってプールの底から両手を使って水をかき上げ、水面に出ると初めて先輩と体を重ねた日と同じ星空がガラスの窓から私以外誰もいないプールをきらきらと照らし出していた。
でもちっともきれいじゃない。
海李先輩……会いたいよ。抱きしめてほしいよ。熱いキスで唇を塞いで息もできないぐらい深い口づけが欲しいよ。
そのうち、ぷかりと水面に体を預け浮かび上がっていると、あたし……何でこうまでして水泳部続けてるんだろう、なんて考えも浮かんできた。
智花の言う通り水泳が続けたかったら家の近くのスイミングスクールに通うことだって、お母さんに頼めばできる筈。なのに何故この水泳部にこだわっているのか。
何だか色々分からなくなってきた。



