人魚のティアドロップ


「美海、誰だよアレ」

普段クラスではあまり声を掛けてこない翔琉が声をかけてきて、

「ん?前いた水泳部の先輩」と簡単に説明すると

「何で美海があんなガラの悪そうな男と?」と翔琉がほんのちょっと眉を吊り上げる。

「ガラが悪い?いい人だよ」と今度は私が言い返すと

「とにかく美海には不釣り合いだよ。まさか……好きとか?」

「は……?違うし……ちょっと勉強教えてあげただけ」

ホントのことだ。でも

好き

なのは本当。

「一年の美海が二年の先輩に?」

「基礎だけだよ」と短く答えると

「ホントに?」と翔琉はまだ疑っている様子。海李先輩と付き合ってたら堂々と言えるのに。私たちの関係は凄く曖昧なもの。

「もうしつこいな、あたしがそう言ったらそうなの。信じられないの?」とぞんざいに言って鬱陶しそうに手を払うと翔琉は疑り深い視線だけ残して離れた。

もう、何なの。

翔琉の態度を怪訝そうに見送り、私は友達の群れへと戻った。

「今度は速川くん?美海って知らなかったけど意外と男子と仲良いよね」とまたも友達がくいついてきた。

「あー、アレは幼稚園のときからの幼馴染だから、腐れ縁的な?」

「そーだったの?美海にあんな隠し玉がいたなんて。この際速川君でもいいや。結構かっこいいし。紹介…」

「ヤダ、面倒」今度ははっきり言えた。面倒なのは事実だ。放課後?もしくは休日まで翔琉と顔を合わせたくないよ。仲は悪くないし悪いヤツじゃないけど、何か面倒。

「えー、ケチぃ。もしかして美海、速川くんのこと…」

「好きじゃないって。本当に面倒くさいヤツだから。会うならセッティングするけどあたしは行かないから」

「美海が居なかったら話進まないじゃん」

「何でよ、同じクラスメイトじゃん」

「そう言う問題じゃないし」

じゃぁどういう問題。翔琉は人懐っこいし、誰とでもすぐに仲良くなれる。私なんていなくても十分じゃん。

と言うわけであっという間にお昼休みが終わってしまった。

試験も終わったし、今日から殆どの部活動が開始された。勿論水泳部も。

この日も殆どが殆どが筋トレで競泳は一時間程の時間しかなかった。けれど久しぶりのこの水の感触。やっぱり水って心地良い。体全体を包まれているこの感じ。覚えている筈なんてないのに、お母さんのお腹の中で大事に育ててもらった感触。

今日は沙羅先輩の意地悪もなく、練習が終わるとコーチの指導を聞き、それが終わるとそれぞれシャワーを浴びたり更衣室に向かったりですぐに散り散りになった。

私はまだ水の中にいたかった。自主練をするとコーチに申し出ると「真面目でいいぞ」と快諾を得た。

先日海李先輩に教えてもらった肘や手の角度、足が水を蹴るタイミングを意識しながら30分程泳ぐと元々温水だから指先がふやけてきた。

温水のシャワーで軽く体を洗って女子更衣室に向かうと、中からひそひそと声が聞こえていた。その声は押し殺したような声で時折忍び笑いのようなものが聞こえてきた。

何?

何故だか堂々と入っていけず、更衣室の前で躊躇し中をこっそり覗いてみると

沙羅先輩とコーチが抱き合っていた。

え!?