勉強は三時間ほどで終わった。長く思えるけれどあまり進んでいない気がする。というものの、先輩のやる気にあまり火がつかなかったからだ。
『教えて』って言い出したのは自分なのに。
もう、これじゃ意味ないじゃん。と思いつつも肩を並べて勉強するのはやっぱりドキドキと緊張した。私の方もごきちなかったから先輩だけのせいじゃない気がするけど。
それから一週間経った。一週間連絡を取らなかった。先輩から来ないし、こっちからするのも……軽い女と思われそうで辞めた。試験も終わり、早速今日の放課後から部活が再開する。
と、いうときだった。
昼休憩、友達と机を合わせてお弁当を食べてると
「美海~誰か分かんないけど先輩?みたいな人が美海のこと呼んでるよ」とクラスメイトに声を掛けられた。
先輩?
「よ、美海~」
「海李先輩」しかいないじゃんね、親しい先輩なんて。
先輩の顔には満面の笑顔が浮かんでいた。何だろう、いいことあったのだろうか。
でも、ここ一週間会えてなかったから嬉しいし、先輩の笑顔が眩しい。
「美海のおかげでほら!」と先輩はちょっとぐしゃぐしゃになった何かの用紙を開いて見せてきた。それは数学の答案用紙で右上の赤で書かれた数字には45点と書かれていた。
「俺、30点以上取れたの初めて!美海のおかげでだいぶ問題が解けた」
30点以上初めてって、どんだけよ。とツッコミ所。
「お役に立てて良かったです」と私の顔に引きつった笑みが浮かぶのが分かった。
でも、先輩がこんなに喜んでくれたから勉強した甲斐もあったかな。
「ありがとな!今度何か驕る」と先輩はよっぽど嬉しかったのか答案用紙をしげしげとながめて、ついでこちらに笑顔を向けてくる。
「いえ、あたしほとんど何もできてないし」と言うと
「謙虚だなぁー、大人しく奢られとけ」と私の頭をぐしゃぐしゃとまさぐる。
「ちょっと!ぐちゃぐちゃになっちゃいます」と抗議すると「はは、美海はどんなでも可愛いから」
また、可愛いって―――
嬉しいけど先輩視力大丈夫ですか?と疑いたくなる。それともやっぱり先輩にとって挨拶的な?
「あ、やべ。ツレとゲームする約束してるの忘れてた。じゃな」と先輩はまるで台風のように去って行ってしまった。
何なんだあれ。
茫然と先輩が立ち去った後を眺めていると
「美海!誰あれ!美海の彼氏?」と友達に囲まれた。
「まさか。ちょっとした知り合い?って程度で」
「でも”美海”って呼び捨てしてたし。ちょっと不良っぽいけど結構かっこよくなかった?」
「あの人は誰でもそうなの。フレンドリーっての?距離感の詰め方が近いって言うか」
知らないけど。でも最初から距離感は近かった気がする。
その距離はつかず離れず。近いとも遠いとも言えない。
「美海の彼氏じゃなかったら付き合ってないんだよね、だったら紹介して!」と当時私の周りには彼氏居ない率がダントツ多かったから当然そう言う流れになるわけで。
「う……うん。聞いてみる」
いやだ、と即答できない私。海李先輩は私のものだもん、とハッキリ言えないのが悲しい現状。
はぁ……ちゃんと付き合ってたら『付き合ってるから無理』って言えるんだけどな。
それでも、成績の報告だったらメッセージでも良かったのにわざわざ会いに来たってことは、相当嬉しかったんだな。
私もちょっと嬉しい。



