私は数学の参考書を開くと
「ホントに一年の問題で大丈夫ですか?」と念押しした。
「大丈夫、大丈夫」と先輩はへらっと笑って木の机に二人並んで腰を下ろした。
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「この公式をこの公式に代入して」と説明していると、先輩はうつらうつらと眠そうに船をこいでいた。本当に勉強が苦手そうだ。ま、好きな人もいないだろうけど。
「先輩」と肩を叩くと
「あ、わり……俺、難しい話聞くと眠くなっちまうんだ」
「難しくはないですよ。これは基礎中の基礎だからたぶん二年生の問題でも応用できるはず」
「美海が言うとそうなのかもな」と先輩は肘を机について私を覗き込む。そこではじめて「あれ?美海今日ちょっと化粧してる?」と気づかれた。
「え?あ…はい。友達がしてて可愛いな~って思ったから…でもあんまりうまくできなくて」
「そっかぁ?可愛いと思うぞ?」
か、可愛い!?
先輩に可愛いって言われた!
嬉しすぎて顔が熱くなるのが分かる。
その熱くなる顔を誤魔化す為、「眠いのならこれ食べてください」私はスクールバッグからグレープ味の飴を取り出した。「ちょっとは眠気が覚めるかも」
「お。サンキュ。気が利くな~」と先輩は早速飴の袋を破いて口の中に放り込む。途端にみずみずしいグレープの香りが辺りに漂った。
それだけで酔いそうだ。
「じゃぁ続き…」と言いかけた時、海李先輩は私の顔を挟んでこちらに向かせた。
何?と思っていると先輩の顔が近づいてきて突然の
キス。
え――――?
「飴もいいけどさー、俺にはこっちの方がいいかも」と私の唇に乗ったグロスが先輩の唇に移ったのかうるうるしたジェル状のグロスを唇で一舐。私の口の中にはほんのりグレープの香り。
「ちょっ……ここ図書室…」そう言う問題じゃない気がしたけれど、真っ赤になって慌てて口元を押さえると
「はは、美海は可愛いなぁ」と頭をぽんぽんと叩かれる。慌てて周りをキョロキョロと見るとみんなそれぞれ本を読んだり勉強に没頭したりで、私たちのキスには誰も気づいた様子はない。
それよりも、また―――可愛いって……
からかってるのかな?
それとも先輩にとってこれは挨拶みたいなもの?私は何?マスコット的な?ぬいぐるみかペット扱いみたいに気軽に「可愛い」って言ってくれるけど
でも
マスコットでもペットでもいいや。
先輩とこうして一緒にいられるのなら。



