人魚のティアドロップ


前日に智花と約束しておいて良かった。

智花のおうちは私のうちよりもっと大きくて新しくてきれいだ。智花の部屋も私の部屋より広い。

「美海は肌がきれいだからファンデは塗らずパウダーだけ、今はナチュラルメイクが流行ってるからアイラインもマスカラも盛り過ぎず、瞼には淡めのピンクが似合うかな~」と化粧ポーチから出されたメイク道具の数々を見て私は目をぱちぱち。メイクなんてはじめてする、どれも見たことのあるものだけど実際使うのは初めてだ。

ブラシで顔に色が乗る度、まるで人魚が足を手に入れた気分になった。それは海しか知らなかった人魚姫が地上の世界を知った気分。

「できた」と言って智花が満足気に言い、私に手鏡を渡してきた。

ほんの少し色が乗っただけなのに何故だか全然違う自分になった気がして「わぁ」と声が出た。

「ねね、この後ドラッグストア行ってメイク用品買わない?」と私の反応に気を良くしたのか智花が言い出し、「いいね」私は嬉々として頷いた。だって私メイク用品何一つ持ってないんだもん。

慣れてる智花と一緒だと心強い。

二人して最寄りのドラッグストアに向かい、あーでもないこーでもないと言いながらお目当てのメイク用品を籠に入れてぐるりと一周していると翔琉と友達だと思われる男子の群れを見つけた。

「あ、かけ……」”る”と声を掛けようとした。翔琉たちは避妊具用品の前で笑いながらいて、私が声を掛けたことで翔琉は身を固まらせた。私も固まったよ。

翔琉は手にした一箱の避妊具を床に落とし

「あ、美海……これは!」と必死に言い訳を探しているようだった。

考えたら翔琉だって男の子だしそういうこと、考えるよね。彼女がいるって聞いたことないけど。

私の後ろにいた智花が「美海?」と顔を出し「あ、翔琉」と言いながらもその光景を目にして目を開いている。

「と、智花も居たんか……何二人買いもん?」と翔琉は落ちた商品を慌てて棚に拾い上げ必死にその場所を隠すように背中を向けているけれど、時すでに遅しだよ。

「何、翔琉。相手?」と下卑た笑いを浮かべながら翔琉の友達と思われる男子たちがにやにや笑っている。

「ちがっ!」翔琉は真っ赤になりながら「ほら、行くぞ」と友達数人を強引に引っ張ってその場を立ち去った。

「別に……そういう年頃だし、今更?な関係じゃんねー、隠すことない気がするけど」と智花に無理やり笑いかけると

「そうだね……」と智花も無理に笑っている、気がした。

いつか見た……そうだ、あれはファミレスで見たぎこちない笑顔だった。