人魚のティアドロップ


「美海!練習するのはいいけど遅くなる時は前もって言っていきなさい」

と玄関口に腕を組んで構えていたお母さんから案の定叱られた。

「まぁまぁ母さん、美海だって練習に夢中だったわけだし」とリビングからひょっこり顔を出したお父さんが私の味方になってくれる。

「でも美海は女の子よ。こんな時間まで引っ張って部はどうなってるの!」

このままじゃ水泳部に乗り込みそうな勢いだ。

「み、みんなが帰った後一人残って練習してたの。強制されたわけじゃないから」と早口に言って逃げるが勝ちと言わんばかりに私は自室のある二階へと駆け上がった。二階は二部屋あって私の部屋と三個下の弟の蒼空(そら)の部屋がある。その蒼空がひょっこり顔を出し

「バーカ、遊ぶんならもっとうまくやれよ」とこの頃すっかり生意気になった蒼空がべーと舌を出している。

「違っ!遊びなんかじゃないから!部活だよ、部活!」と声を潜めて怒ると

「ホントかよ」と蒼空はまだ疑っている様子だったけれど、私はそれを遮り扉をバタンと閉め、強引に話を終わらせた。

一人、明かりをつけていない部屋でずるずると座り込む。

まるで夢みたいな一日だった。夢じゃないよね。みょんと両頬をつねってみたけれど

「痛っ」ちゃんと痛みは感じるし、やっぱ夢じゃない!?

「キャー!」ボスンと音を立ててベッドにダイブ。

その際に打ったのか下腹部にほんの少し痛みが走った。その場所を押さえ

「”あれ”も夢じゃない……」と私は掌をかざした。

不完全だった”女”の部分がやっと”完全”になった気がして頬が緩む。

智花に報告しようかな、と一瞬思ったけれど『そんなの遊ばれてるだけに決まってるって』と言われることが簡単に想像できて、

止めた。

遊ばれてるだけ……もしそうだとしても、私は先輩にもっと近づきたい。

スマホを開いてさっき交換したばかりに海李先輩にメッセージを送ろうかと思って、躊躇した。

「さっきはありがとうございました、って言うのは変か……送ってくれてありがとうございました?ぐらいなら…」

でも一回しただけですぐメッセージを送るのは、簡単な女だと思われそう。

うーん、どうすればいいんだろう。あれこれ考えているうちに15分も時間が掛かっちゃった。

そのときだった。

私にメッセージの通知が来たのは。