次の日の朝早く、小さな物音で私は目を覚ました。

リビングに向かうと翔琉が持ってきたスーツケースに荷物を詰めている最中だった。

「……おはよ」小さく声を掛けると

「……はよ」と答えが返ってきたがスーツケースに荷物を入れる手は休まない。

「ごめん……俺、やっぱこのままお前と一緒に暮らせないわ。出ていく」

「ごめん、は私の方だよ」

「なぁ、一つ聞いていいか?」

「うん?」

「腹の中の子供の父親、お前に子供が出来たって知ってるのか?」

私は微笑を浮かべながら、またもゆるゆると首を横に振った。

「じゃぁこれから一人で産んで一人で育てるつもり?」

「――――うん。もう覚悟はできてる」

「父親に伝えるつもりはないのか?」

「ない」

はっきりと言い切ると、

「腹の子の父親ってさ、”これ”をくれた相手?」

私の首にぶら下がったティアドロップ型のネックレスを翔琉がそっと撫で

私は小さく頷いた。

「ずっと気になってた、お前ピアスは変えるけどそれだけはいつも代えなかったから。はぁ、指輪がそのネックレスに負けるとは」

翔琉は冗談交じりに言ってちょっと笑った。

「翔琉のダイヤの指輪もステキだったよ」

「だって一生懸命選んだんだから当たり前だよ」

「ふふっ、ありがとう」

私がちょっと笑うと、翔琉の顔が近づいてきた。チュっと額にキスをされると

「ごめんな、不甲斐ない俺で」

「ううん、謝るのは私の方。今までありがとう。楽しかったよ。元気でね」

「俺も楽しかった。元気な赤ん坊産むんだぞ」頭をぽんぽん叩かれ、私はゆっくりと笑顔を浮かべた。

翔琉―――ありがとう。そしてごめんね。


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――

そうして五年が経った。

私は会社を辞め、実家にも智花にも何も言わず都心を離れ、海李先輩が最初で最後の家族旅行に行ったという海辺の街……そこは沖縄ではなかったがそこに似た場所で、子供を産んだ。生まれた男の子、名前を”海斗(かいと)”と付けた、その子と共に子育てをしながら今は児童保護団体の施設で働いている。

海斗は名前の通りなのか、父親の血を濃く受け継いでいるのか海が好きだった。休みになると私たちは必ず私が作ったお弁当を持ち海に遊びに行った。

砂浜でビーチボールでサッカーもした。水際でひいては押してくる波にキャッキャと声をあげて遊ぶ姿が可愛かった。

「ぼくね~、ママのおべんとうのたまごやきがいちばんすき」

それもパパ譲りね。

心なしか顔も海李先輩に似ている。

私は海李の成長を嬉しく思い楽しんで、毎日が充実していると思った。

そんなある日のことだった。