「好きな―――ヤツができたとか……」

翔琉に聞かれ、私はゆるゆると首を横に振った。

海李先輩のことは好き。でももう二度と会うことはないだろうし、そもそも海李先輩は自分の子供が欲しくないと言った。だから例えこの先何かのふしに会ったとしても一生黙っているつもりだろう。

「じゃぁ何で――」

翔琉が困惑と怒りをごちゃまぜにしたような表情で前髪をぐしゃりとかき上げる。

私はため息を吐いた。

やはり、一方的に別れを告げられて納得なんてできないよね。




「私、子供が出来た。

相手は翔琉じゃない」




「え―――?」

翔琉の目がみるみる開いていく。

「浮気―――したってこと……?」

「そうだね……そういうことになるね……言い訳みたいになっちゃうけど事故みたいなもので」

「言い訳だよ!」

翔琉は怒鳴った。再び私の肩がびくりと動いて

「ご……ごめん、お腹の子に悪いよな…」と翔琉が私の下腹部を見つめる。

「ううん……悪いのは全部私…」

「いや…俺も忙しさにかまけて美海に構えてなかった部分があるから…」

翔琉は優しいね。こんな酷い女のこと、まだ庇ってくれるなんて。

いっそのこと怒鳴られて嫌われて、出て言ってくれた方が楽だ。

でもそんな私にとって都合の良い話はない。そんなことを思う資格もない。

「とりあえず、一晩考えさせて」

翔琉はそう答えを出した。

私は素直に頷くしかなかった。

この日ばかりは私はベッド、翔琉はソファで寝ることになった。

久しぶりの一人のベッドはかなり寂しかったけれど、これから慣れて行かなきゃならないと思うと何故だか涙がこみ上げてきた。