私の初恋は、今でもはっきりと記憶に残っている。
あれは中学三年の夏だった。
私は小学校から入ったスイミングスクールに夢中になり、勿論中学でも水泳部。残念ながら実力はそれ程でもなかったけれどそれなりに水泳に力を入れている高校に入りたかった。
さほど都会でも田舎でもない平々凡々とした街の中、在来線一本で行ける割と水泳に力を入れ県大会でも優勝と言う実績のある高校を同じく水泳部員だった友達の智花と見学したときだった。
大きなプールで思い思い泳ぐ先輩部員たちをフェンス越しに眺めてたっけ。
水泳部は男女合わせて三十人程。これが多いのか少ないのか分からないけれど男女の比率は同じぐらい。事前に渡してくれた水泳部の説明パンフにはその水泳部は競泳と水球と、アーティスティックスイミングの部門に分かれていて、時間帯か曜日なのかこの日この時間はちょうどタイミング良く競泳の練習に勤しむ選手たちでいっぱいだった。
放課後の真夏の太陽は少し傾きかけていたが、それでも十分過ぎるぐらいの暑さでプールの水面をキラキラと輝かせていた。私は吹き溢れる汗を気にすることもせず、その練習様子に夢中になって食いつくように見ていた。
特に際立ってきれいなフォームでクロールをこなしタイムも抜群な一人の男子先輩に目が行った。水をかきあげるときの腕の角度、指先が水に入る瞬間、無駄のない動き。肺活量は抜群なのだろうか殆ど息継ぎはない。
彼はゴールにタッチすると、マネージャーだと思われる女の人が近づいてきてストップウォッチを見せると、にかっと白い歯を見せ、そのマネージャーと思われる女子先輩にハイタッチ。真っ黒の見ようによっちゃカマキリみたいなゴーグルを外し、見るも鮮やかなスカイブルーの水泳帽をやや乱暴のように思われる仕草で取り去ると、頭を振った。短めの黒い髪から透明の雫がキラキラと飛び散る。
そのままプールサイドに上がってきた姿を見て目が釘付けになった。
その美しいフォームとは想像もつかない少し強面な顔。
切れ長の…黒目がちの印象深い目は不思議な色気を纏っている、けだるげ、とも取れるが、変にギラギラしてなくて、ゆっくりとした時間が流れているような優しげな瞬間な視線。眉は少し細くてどこか神経質そうな性格が浮かんでいた。鼻筋はすっと通っていて、厚くもなく薄くもない形の良い唇、全体的に整った顔立ち。鍛えすぎずかといって細すぎずの筋肉質の体。首筋のくっきり骨筋がはっきりとしていて、何とも言えない独特な”男”の色気を纏っている。
その彼が必死にフェンスにしがみついていた私に近づいてきた。
ドキリ、と心臓が鳴った。



