「真田先輩、これってどうすればいいんですか?」
「ああ、ここは木べらを使って⋯⋯」
そう言いながら手本を見せていると、視界の端に頭を捻りながらボウルとにらめっこしている後輩の姿が目に入って、思わずくすっと笑ってしまう。
「蒼空、なにか困ってることある?」
「夕真先輩!⋯⋯あのぉ、サクッと混ぜるっていうのがほんとに理解できないんですけど⋯⋯」
混ぜるときのジェスチャーをやって見せてくれるけど、動きがたどたどしくて可愛い。
「サクッとっていうのはね、ヘラを縦に持って切るように混ぜる⋯⋯って言ってわかるかな?」
「こ、こうですか⋯⋯?」
「あ、そうそう!上手じゃん」
蒼空が不安そうな顔をしているから、拍手をしながら褒めてあげると、顔中に笑みが広がって鼻歌でも歌い出しそうなくらい嬉しそうにする。
「先輩の教え方がいいからです、ありがとうございます!」
「そっ、そんなことないでしょっ、蒼空が一生懸命だからよっ」
「はいはい、夕真先輩はホント素直じゃないな〜」
蒼空が子供をあやすようにそう言うから、私は恥ずかしくなって逃げるように自分の作業に戻る。
「真田先輩、山﨑くんといい感じにラブラブですねっ」
「えっ、香菜ちゃん!?何言ってるの!?」
同じ班で料理していた蒼空と同じクラスの後輩・香菜ちゃんにそう言われて、せっかく冷めてきていた顔がまた暑くなる。
「いやぁ、山﨑くんからずっと相談を受けていた身としては、2人がうまく行ってそうで嬉しんですよ」
「そ、そうなんだ⋯⋯」
香菜ちゃんの言う通り、私と蒼空は1ヶ月くらい前に付き合い出した。
4月にこの料理部に入部してきた蒼空は、入部して以降毎日のように気持ちを伝えてくれて、そんな蒼空に惹かれてある日の告白にOKを出した。
片思いをしていた期間の蒼空は、同じクラスで私が一番仲の良い香菜ちゃんにいろいろ相談していたみたいで、時々こうしていじってくることがある。
でも、そんな香菜ちゃんだからこそ相談できることもあって⋯⋯。
「そういえば真田先輩、結局まだ山﨑くんに好きって言えてないんですか?」
「⋯⋯はい」
「あちゃー⋯⋯まあ、先輩ツンデレですもんね⋯山﨑くんも分かってそうだったけど⋯⋯」
自分のことのように悩んでくれている香菜ちゃんに感動しながらも、聞き逃がせない単語が出てきて思わず手を止める。
「ツンデレ?」
「え?はい、先輩はツンデレですよね⋯⋯?」
「え?」
「⋯⋯え?もしかして、自覚ないですか⋯⋯?」
香菜ちゃんにそう言われて自分でも考えてみるけど、思い当たるフシがない。
「ほら、先輩って褒められたりすると逃げるじゃないですか!」
指を立てながら思いついたようにそう言う香菜ちゃんだけど、一つ疑問が湧いてくる。
「それは⋯⋯ツンデレなの?」
「⋯⋯さあ、分からないです」
その後は、部活が終わるまでツンデレについて議論していた。



