愛を呑み込んで、さようなら


ーー君は本当に酷い人だったね。



『あんなにナギのために作った料理美味しいって言ってくれないし手も合わせてくれないし…浮気するし_ 』



『うそ、嘘吐き、なんでそんな嘘つくの。本当は私じゃなくてあの子 のことが好きなんでしょ_ 』




ーー君は本当にずるい人だったね。


『 …本当にユアの料理美味しかったよ、好きな味だった_ 』


『 ユア…俺1年後とか2年後とかそこら辺には仕事が安定してくると思うんだ。だから、その時は結婚しよう_ 』



ナギは私の最後の嘘に気づけたかな、私は、ナギの嘘ちゃんと分かったよ、ちゃんと嘘って分かってた…。ナギとの別れ話で冷えた心をカフェのミルクラテで温めた。それでも芯からは温まれなくて あの場 へと戻った。



ガチャ…



「ただいま」




ナギはもう出ていったのかな。…荷物はまだ全部出されてないけど、所々積めてあって…もうこれで最後なんだなって思うと 色んな思い出が波のように押し寄せてきて実感 というものを痛感した。あそこのリビングでテレビの取り合いにもなったし、ナギがあそこで寝てるから掃除の邪魔だって怒ったのにナギが結局甘えてくるから掃除がまともにできなかったり…



あそこのキッチンで2人で料理もしたよね、不器用すぎて ユアがいないと生きてけないって弱音吐いてたよね。そんな私と君はもう終わりなんだよね…5年間付き合ってて結婚の約束もしたのに…こんな終わり方ってないよね…



もう君の荷物はダンボールに少しずつ積めてあって2人分から1人分になるというのは結構変わって、あんなに家具沢山だった部屋が少なくなって、少し私の声が響きやすくなった部屋に、私は1人で想い出を思い泣いた。



ナギとお揃いのあのコーヒーカップ、喧嘩もしたりイチャイチャしたり、楽しかったこの部屋は もうもぬけの殻で 悲しい想い出の場所 になってしまった。



…私どれだけナギのこと好きなんだろう?あの人から浮気したくせに、裏切ったくせに、私の料理美味しいって言ってくれなかったのに最後まで悪役になれなかった君は最後の最後で美味しいって言ったよね。




『 ー私とお揃いだったペアリング、どこ行ったの? 』


『 私もうナギの彼女じゃないからこれ無くすね… 』



あの瞬間から私たちは終わった。もう、元に戻らない、と自分を説得し自分の声が響きやすくなった部屋を整理整頓をする。…これが本当の最期だと自分に言い聞かせるように_



「…整理整頓も終わったし、今日はこの位でいいかな」




ガチャ、、


ードクンッ…ドクッ、ドクッ、



この優しく歩く足音、慣れた手つきでドアを開けた音、ナギ帰ってきたのか…そっか、もう夕方だもんね。まだ完全に退去してないからまだ、ナギの家だよね…


彼がリビングに繋がるドアを開けた瞬間に彼の手に持っていた袋は音を立てて床に落ちた。



「…ユ、ア…っ」


「……」



そんな愛おしそうな顔で、そんな悲しい声で、私の名前呼ばないで。



「…なに?」


「…っユア」


「私たちもう終わったはず、だよ」


「そうだよな、ごめん…ほんとごめ…っ」



悲しそうに声も言葉も止めたナギ。別れたとは言え、終わったとは言え……



ーあの ペアリング 最初から最後までつけないんだね



「この家いつ出ていくの?もう荷物半分以上終わってるように見えるけど」


「……荷物は半分終わったけど服とかまだ詰み終わってなくて。あと1週間後かな…此処を出たら俺、北海道行くよ」



「ほっ、かいどう…?あの女の所についていくの?」



「ううん、あいつとはもう別れた。…今更になるけど本当に最低な人でごめん、ユアの時間無駄にしてごめん」




「…そうだよ。私あんたといる時楽しかったのに、あんたはそれを、5年間を…無駄にしたんだよ」



「 …… 」


「ナギこの家に長くいれるの最後だから、料理くらいは作るよ…何食べたい?」



「…みかんヨーグルトと、ハンバーグ」


「…っ」




『 ーーとうとう一緒に暮らせるんだねー!ユアと毎日一緒にいられるの俺すげえ楽しみ』


『へへ、私も!楽しみだよ、せっかくだから2人でなんか作りたいなーカレーとか?』


『俺、料理とか苦手なんだよね…ユアの料理美味しいから何食べても美味しいのは間違いないんだけど…ハンバーグとみかん好きだし、みかんヨーグルトとハンバーグ食べたい』



『…!!うん!張り切って作るね!』





「…みかん、ヨーグルトとハンバーグ、かぁ…」





「だめ、か?」


「ううん、ダメじゃない。作るから待ってて」


みかんヨーグルトとハンバーグ、合わないかもしれないけどナギには特別って感じたようで、あの献立を美味しいって、気に入ってバクバク食べてくれたんだ。あの頃はお互い幸せで、お互い好きで…


「…っふ、うう…っ」


リビングに流れる お笑い番組のテレビの音と料理する音…そんなテレビ番組の音に紛れて私の泣き声は君には届かなかった。


近いのに、遠い距離の感覚、最後になる料理、君は美味しいって食べてくれるかな…きっと終わりの味だとしても、悲しい味だとしても最後だから笑って、「美味しい」って食べてね…ナギ。



「…ナギ、できたよ」


「うん、ありがとう。」


いただきます…その仕草にさえ私は泣きそうになった。



もう、スマホを見ながら、食べないんだね。もう、私の目を見ないで、いただきますって言わないんだね…


今の君はちゃんと美味しいって笑顔で言ってくれるし、いただきますって私の目を見て言ってくれる…美味しいって言ってくれるんだね、ちゃんと私の目を見て言えるようになったんだね。




「…あの頃となんも変わらない味…すげぇ、美味しいよ…」


「…う、ん」


「…ユア」


「……」



「…ユア」


「うん…」


「…最後の人とか無いだろうけど、俺の最愛の人が君でよかった。」


「私も、ナギが最愛で良かったよ」



お互いにとって君はもう過去の人で、終わった存在。だから「好きでよかった」って過去の言葉を吐く_