愛を呑み込んで、さようなら。




「───今日はもういいや。ご馳走様」


「もう、要らないの?」


「うん」


「そっか…」



“ごちそうさま”と手も合わせずに椅子を立ちスマホを片手に持ち彼は寝室の奥へと消えていった。


私とは少しも目を合わせてくれなかった。あの頃みたいにもういただきますもご馳走様も言ってくれないの?



──1年前の彼なら美味しいって言って私の料理をバクバク食べてくれておかわりもしてくれたっけ。あの頃の彼はちゃんと私の目を見て話してくれて、ご馳走様もしてくれて、彼の仕事仲間にも私の料理を自慢してくれていて……


「ああ、もうやだな……」


こうして明かりの無くなった部屋にぽつんといると嫌でも考えてしまう……。


携帯のホーム画面も私の作ったマカロンだったよね。さっき、携帯からチラッと見えたホーム画面、誰かとのツーショットだったね…浮気しているのかな。そんな捻くれた考えしか出来ない自分が大嫌い。




チリリ…チリリリ──



朝7:30、彼の携帯からアラームの音が聴こえうるさいアラームの音を止める。次に表示されたのはパスワード入力の画面



「……パスワードかけてたの?」



携帯には見られたくない情報とか仕事の話もするからパスワードはかけてて当たり前だとは思う。




『 ユアとの会話自慢したいからパスワード俺はかけない。かけたとしてもユアの誕生日かな── 』



1224、ゆっくり、間違えないように、打つ…




ー 入力されたパスワードが違います ー




「…人の携帯勝手に見るの最低だよね…もう辞めよ」




この一週間で私は変わった、変わってしまった。彼の行動全てを疑うようになってしまった。彼を疑う度に私は言い聞かせていて自分を納得しようとしていたのかもしれない。




……浮気?頭の中にふっと思い浮かび消えた。




───私の目を前までは見て話してくれてたのに最近私の目を見て話してくれなかったのも 私の目よりあの子の方の目が良いの?



私の料理を前までは美味しいって食べてくれてたのに最近美味しいって言って食べる事も、いただきます、ごちそうさま、って手を合わせてくれないのも 私の料理じゃなくてあの子の作った料理が何倍も美味しいから手を合わせてくれないの?




前まではパスワードなんかかけてなかったしかけてたとしても私のパスワードって言ってたのにさっき打ったら違うパスワードだったよ。あの子の誕生日に設定してるの…?



なんて、私らしく被害妄想が頭の中をスヤスヤと泳いでる。



…スマホに目を向けないで、ちゃんと私の目を見て…ちゃんと私のご飯を美味しいって言っておかわりして欲しいしいただきますもごちそうさまも言って欲しいよ。



…隣にいるのに果てしなく君が遠い…なんて考えてる、私は悲劇のヒロインぶってるのかな




「……あぁ、ユア起きてたの」


「うん、おはよう」


「…ん」



「最近、仕事忙しいの?」


──どうして、こんなに声が震えてるのだろうか?


「別に、関係ねぇだろ」


「関係、あるよ…」



「は?」



「…っ、ご飯とか色々用意しないといけないし」



「あぁ、うん、まぁ。忙しい、よ」


───なんて歯切れが悪いのだろうか。つくならもっとマシな嘘にしてよ。まるで私が惨めになるじゃないか…


「お仕事頑張ってね」



「うん、…行ってくるわ」



“行ってらっしゃい”私がその言葉を言う前にはもう彼は居なかった。





『 ユア…俺1年後とか2年後とかそこら辺には仕事が安定してくると思うんだ。だから、その時は結婚しよう 』




『 うん!結婚したい!幸せな家庭一緒に作ろうね!ご飯も全部好きな物作る! 』




『 ははっ、そんな好きなものばかりだったら俺幸せ太りしちゃうな 』



2年前、結婚しようって約束して指を結んだ。結婚指輪はまだ先になるけどペアリングなら今買えるよって言われて買ったんだよね。



…私の右手の薬指に輝いている1粒のダイヤモンドの指輪。



本物とまではいかなくても、この指輪を見るだけで私は毎日頑張れてたの



…指輪、今も付けてくれてるのかな?昨日の彼の指には何にも付いてなかった気がする。指輪…ただのペアリングだし…。そう思ってご飯を作る為にキッチンへ立つ。



キッチンから見る私の目に写ったある光景、ふと思い出した。お昼すぎてもソファで寝てる彼に対して私はこう言ったんだっけ?



『もう!掃除手伝ってくれないんだったら寝室で寝てよ! 』



『 嫌だ、寝室だったらユアの姿見えないし、掃除機の音だけでもユアがここに居るんだってわかってるから寝れる。だからここがいい 』




──君はいつもずるかったよね、いつも私を喜ばせるよね。



『 そ、っか…!嬉しいけど照れるな。』



『 …可愛い。好きだよ 』



『 私も!大好き 』





──今はもう可愛いも好きも言ってくれない。過去の事を思い出して悲しさに暮れても意味がない、そう分かってても楽しかった頃の記憶を思い出して辛くなる。



今日は彼の好きなハンバーグどスープを作ろうかな。…よしハンバーグは作れたからあとスープ…



──プルルルル…


「もしもし」


「ん、俺だけど」


「どうしたの?」


「わりぃ、今日帰らないわ」


───ドキッ…!ドクン、ドクン…


心臓が早鐘を打つ。今まではどんなに仕事が忙しくても、“いただきます”と手を合わさなくても許してた。


けれどそれは、ちゃんと家に帰ってきてくれたからで…


「…っえ、なんで?」


「仕事が長引きそうで」


「先…に言ってよ。もう作っちゃったよ?」


『 ナギくん、私もうお風呂終わっちゃったよ〜?ナギくん入らないの?』



え…?女の、声?お風呂?お風呂ってなに…?



「…!ユア一回切るわ」



プツン…ツーツー…




……やっぱり浮気してたのか、私の目を見ない所も美味しいって言ってくれない所もスマホにパスワードかけてたのも…全部浮気して私に見られなくなかったから?



せっかく2人前作ったハンバーグを片方ラップをして冷蔵庫に入れ、作り途中だったスープの火を止めてハンバーグを食べる



“いただきます”私の声はリビングに息となって消えた…



───その日は、寝付けられなかった。