自称ぽんこつ令嬢は今日も記憶をなくしたいのに、殿下の溺愛が止まりません。

 今年で17となりましたが、セクシーさは幼稚さの陰に隠れ、未だに成長途中。婚約は5歳の頃に決められ、それ以降お妃教育を行ってきました。しかし、ダンスにしても勉強にしてもギリギリ及第点が取れているだけで、私はお妃様になど到底向いていないのです。

 それでもリオン様は昔から私に優しくして下さり、絶対に婚約破棄などして下さいません。だから、こうやって記憶をなくし、何もできない、何も思い出せないという演技でなんとか破棄を勝ち取ろうと思ったのです。それなのに、リオン様はとても頭が良い方なのでいつも見破られてしまいます。

「したくてしているわけじゃないんです。これは事故なんです」

 そう、したくてしているわけじゃないんです。だって、こんなぽんこつな私はリオン様の隣に立つ資格なんてないもの。私はあまりに不釣り合いだから。

 自覚があるだけ、マシだと思っていただきたい。私はぽんこつでおバカですが、淑女としての弁えくらいはちゃんとあるのです。

「考え事をしていて、そしたら手と足が同じになっていて」

 これはホントです。厨房から何やらいい匂いがして、後ろ髪を引かれつつ部屋に戻ろうとした時にうっかり足を滑ってしまいました。朝ご飯を食べた後だというのに、午後のティータイム用のお菓子の匂いが気になったなど、淑女としてはあるまじき行為です。なのでここは、考え事をしていたのだと濁すに限ります。

「うん、そこまで覚えていれば大丈夫だね。でも、本当に気を付けないと。本当に大きな怪我をしたら困るからね。やっぱり、すぐにでも王宮へ引っ越そう。うん、それがいい。騎士が付いていれば階段から落ちることも、転ぶことも、噴水に飛び込むこともないからね。33回目が本当の記憶喪失になったなんてことになると、笑えないからね」
「え……」

 あれ、私はどこで返答を間違えたのでしょう。リオン様はもう満面の笑みです。

「あの」
「考え事をしながらの階段は危ないね。一体、今回は何を考えていたんだい?」

 ああ、落ちた時の状況を話すのはアウトなのですね。確かに、記憶がなくなる前の情報ですものね。盲点です。次からはこれも気を付けないと。