あの星の下で、もう一度

ベンチに2人で座っている僕らを照らしてくれるのは月よりもずっと上にある綺麗な無数の星たち。僕の横で嬉しそうに星を見ている君、そんな君の隣でキミの横顔を見ている僕。

「…なんでそんなに空が好きなの?」

「…空を見てたら私の悩みも不安もちっぽけに思えてくるし私の名前も美空だから…かな、空でも星が1番大好き」

嬉しそうな笑顔なのにどこか悲しい影があったのを僕は見逃さなかった。美空…美しいに、空って書いて美空(みそら)

「私を産んだあの日、空が綺麗だったからあの空のように美しい人になれますように、ってお母さんが願いを込めて付けてくれた名前。名前も由来も空も私は大好き」

はい、って僕に何かを渡す、渡されたものを見ると綺麗な夕焼けが映されていた。

「これ、私が産まれた時の空なんだって、綺麗すぎてお父さんが撮ってたらしい」

「そうなんだ…素敵な名前だね、由来も綺麗」
「想空はなんでその名前なの?」

_想うに空って書いて、想空(そら)

「…なんだったっけ?誰かをあの空のように優しく包んで誰かを想って誰かに想われなさいって意味だった気がする。美空は空が好きだけど、僕は空が嫌いだ…空にはお母さんがいるから。」

「綺麗な由来…私想空の由来好き、だけどお母さん自殺、だっけ辛いこと思い出させてごめんね」

「ううん、大丈夫だよ、もう話はやめにして空に集中したら?星見るために来たんでしょ?」

「…うん、ありがとう」

美空は優しく上を見上げ星を見る、星を見るために深夜に飛び出してくるぐらいだから彼女は本当に星が好きなんだろう。僕も空を見上げる…お母さん、僕を5年前に捨てて想い人と駆け落ちして最終的には裏切られて自殺、そんな悲しい過去を僕は背負ってる、捨てられない一生の過去。お母さんと過去を思い出すからこの名前は嫌いだけど由来と美空と同じ空が着くからやっぱり好きな名前。

カシャ…美空が携帯を取りだして星空を1つの写真に収める。1枚じゃ足らず何度も、角度を変えて、明るさも変えて…。写真を撮るのに満足したのか、帰ろうと催促してくる。

「うん、帰ろっか、帰りは送っていくよ」
「ううん、悪いよ」
「…いいから、行くよ」

先頭を越すように僕が歩きその僕の後ろを美空が付いてくる。不覚にも可愛いって思ってしまった、

あっという間に美空の家に着き別れを告げる。

「…今日は突然ごめんね、気をつけて帰ってね。おやすみ」
「あぁ、おやすみ」

幸せだと思ったこの時間、今までは何ともなかったのに可愛いって思った美空の顔、自分の中で少しづつ芽生えてきてる特別な感情、全部新鮮で全部楽しくて、幸せだった。けどこの幸せは一生は続かなかったーー。


連休が明け学校の日になりお昼の時間になっても美空は来なかった_いつもなら学校が好きすぎて朝一番に来るくらいなのに、何かあったんだろうか?と心配で頭を悩ませるしか出来なかった。

「想空、今日美空ちゃんは?」
「んー、それが何も連絡もなくて心配なんだよね」

「そっかー、次こそ連絡先を、と思ってたんだけどな…嫌われてんのかなー」

「美空はそんな人を嫌う性格じゃないよ、だから安心しろ」

美空が学校に来なくて落ち込んでるこの人は俺の幼稚園生からの友達 堤 明 (つつみ あきら)普通に授業受けて、友達と話して、馬鹿なことやって巻き込まれて先生に怒られて、そんな忙しい一日を過ごしていたらあっという間に帰りの時間が近づいても、美空は来なかった。帰りに美空の家に寄ってみよう…

ピンポーン、インターホンを鳴らしても出てこなかった、2階の美空の部屋を見ると美空が暗い顔でどこかを見ていた。美空に気づいてもらえるように大きく手を振ると美空はそれに気づいて玄関まで来てくれた、ガチャ…

「想空、どうしたの」困ったように眉を下げ笑う彼女に問いかける

「今日学校来なかったろ、心配だったから。あとプリント」

「プリントありがと、ちょっと受け止めきれなくて…中に入って」

「…うん」

『受け止めきれなくて…』悲しそうな、苦しそうな我慢しているような…何があったのだろうか?美空の部屋へ入るのは何年ぶりだろう?しばらく入ってないのに部屋はあの頃と何ら変わっていない…変わったのは美空が成長して、匂いもタバコの匂いに包まれている、お父さんのだろう…。


「私ね、最近体調が悪くなることが増えててそれを見かけたお父さんが病院まで連れて行ってくれて検査してくれたんだけど…」

「…だけど、…っ」

だけど、の続きは美空が涙を流していて言葉が詰まって言えていなかった。

「待つよ、ゆっくりでいいから。」
「ううん、今話したい、ここまで来てくれたのに何も渡さないのは失礼でしょ」

また困ったように笑う美空に違和感をおぼえる。