勤務が終わった夜。
 ナースステーションでは、柚希が例のごとくニヤニヤしながら近づいてきた。



 「ねえねえ、今日の陽向先生見た?あの人、やばくない?まぶしいってああいう人のこと言うのよ。」


 「確かに、爽やかだったね。」


 「爽やかどころか、患者さんにも人気爆発だよ。初日で20人くらいに“素敵な先生ね~っ!”ってキャーキャー言われてたもん。」


 「へえ……。」



 淡々と返しながらも、心のどこかが静かに波立っていた。


 ――太陽みたいな人。


 まっすぐで、眩しくて、誰からも愛されるような人。



 そんな人に、私はきっと縁がない。

 住む世界が違う。

 そう言い聞かせるように、結衣は仕事の記録を打ち込み始めた。



 だけど、どうしてか。

 ディスプレイに反射した光の中に、さっきの陽向先生の笑顔が浮かんで離れなかった。





 春の風が夜の病院の外廊下を吹き抜けていく。
 窓の外の桜は、街灯に照らされて淡く光っていた。




 ――恋なんてもうしない、って決めたのに。
 どうしてこんなに、心がざわつくの。




 ほどけないように結んだはずの糸が、
 ほんの少しだけ、動いた気がした。