あれから三年が経った。


 時間というのは残酷でもあり、優しくもある。

 あの日、泣きながら髪を切った自分が、遠い誰かのことのように思える。



 看護師、橘 結衣。

 あれから都内の総合病院に勤務している。

 内科病棟での勤務にも慣れ、ナースステーションでの仕事も自然と回せるようになった。



 朝の申し送りのあと、病室をまわりながらカルテを確認する。

 電子端末の光が白く反射して、結衣の頬を照らした。

 ベッドサイドでは患者さんの呼吸音、消毒液の匂い、モニターの電子音。

 どれも日常の一部になっていた。





 ――あれから恋愛はしていない。
 いや、「しない」と決めたのだ。




 仕事に集中していれば、誰かを想うこともなく、心が乱されることもない。

 恋愛というのは、心に風が吹き込むようなものだ。



 でも、その風は時に冷たく、痛い。
 結衣はその風を、もう必要としないと思っていた。