夜の病棟は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。



 時計の針の音がやけに大きく響く。



 ナースステーションに残っていた結衣は、カルテ整理を終え、
 「これで今日の分は終わり」と小さく息を吐いた。




 その時、背後から静かな声がした。




「橘さん。」



 振り向くと、陽向先生が立っていた。
 白衣の袖をまくり、いつもの爽やかな笑顔ではなく、
 少しだけ熱を帯びた眼差しだった。




「陽向先生……どうしたんですか?」

「ちょっと、相談があって。……時間ある?」



 そう言われ、結衣は頷いた。


 陽向先生に連れられ、二人は空き個室へと入った。